アベノミクスの研究

2016/06/01

伊勢志摩サミットを終えて

5月27日までの先進7か国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)は、政治パフォーマンスの舞台として、長く記憶に残りそうです。日本の聖地に(政教分離に配慮しつつ)各国首脳を招くこともできました。そして主役の座を手にしたのは、広島で深い思想を含むスピーチを行った、オバマ米大統領でしょう。

一方、最重要のテーマとされた「世界経済の成長やリスクへの対処」については、各国の状況に応じ政策を動員する旨を再確認した程度に終わりました。物足りない結果ですが、世界経済は今、絶好調ではないものの危機的でもなく、急を要する問題が少ないということでしょう。これは、喜ぶべきことです。

リーマンショックには似ていない

ところが安倍首相は、リーマンショック前後との類似点を列挙し、世界経済への危機感を表明しました。実際には、リーマンショックと似た点はあまりありません。他国の首脳が賛同しなかったのは賢明です。

念のため確認すれば、2008年の金融危機は、主に米欧で作られた複雑な金融商品が、世界中にばらまかれていたことが背景です。その破たんが連鎖的に広がるとの恐怖感に襲われ、猛烈な信用収縮(お金の流れが滞ること)が生じたのです。これに対し現在は、たしかに新興国を中心に成長が鈍っているものの、それは中国などが高成長路線を修正しつつある中での、基本的には正しい方向の変化と言えます。

それでも未来は常に不確実なので、金融危機が絶対に起こらないとは言い切れません。しかしそれを心配するのであれば、米国に対し、こんな状況で利上げを行ってはならない、と全力で訴えるべきです。

増税延期は正しい判断

あまりにも明らかなことですが、リーマンショックに言及したのは10%への消費税増税を延期するための口実でしょう。案の定、首相はサミットの後、これを2019年10月へ延期する方針を示しました。

首相は常々、リーマンショック級の経済危機や大震災級の事態が起こらなければ、17年4月に増税を実施する、と断言していました。熊本地震は「大震災級」に該当しないというのが政府の考えなので、増税延期を正当化するには、経済情勢が「リーマンショック級」に厳しいことを認めるしかありません。

増税の延期自体は、正しい判断でしょう。脱税の取り締まりなど、増税の前になすべきことがあるからです。とはいえ、増税延期の理由として世界経済の危機を叫ぶ必要はありません。アベノミクスが思いどおりに働かず、国内消費がリーマンショック時を超える不調に陥ったのを認めれば十分です。

アベノミクスの思想的背景とは

しかしアベノミクスは、明るい言葉を発し続ければ必ず実現する、との思想を信じているようです。そのため、大きな目標が威勢よく掲げられます。そして、うまくいかなくてもこれを認められません。

成功を強く信じる姿勢が道を切り開くこともあるでしょう。しかし、楽観論に徹していても、現実の世界では、思いどおりにならないことが当然あります。したがって、どこかで必ず無理が生じます。増税延期の理由づけで苦心しているのも、日銀の異次元緩和が迷走しているのも、必然の成り行きです。

本来ならば、これ以上に無理を重ねないよう、消費低迷のため増税延期、と言うべきです。そう認めても、内閣支持率や株価への影響は小さいでしょう。最近の支持率を見ると、安倍政権は経済以外の理由で支持を得ていると考えられるからです。

にもかかわらず、なぜ、いかなる情勢にあっても、政策は成功していると発表し続けるのか。日本の伝統なのか。それとも、現政権に固有の事情があるのか。これは、経済政策だけでなく、歴史や心理学の見地からも、非常に興味深い研究テーマです。

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