欧米取材報告(3)-ギリシャ悲劇を防ぐために

2015/12/02

今年半ばまで金融市場を震撼させたギリシャの財政危機は今、すっかり忘れられたかのようです。しかし11月、首都アテネを往訪し取材したところ、事態は依然厳しいことがはっきりと感じられました。

率直な印象

現地では金融機関の人のほか街の様々な人にヒヤリングを行いましたが、ほぼ例外なく、景気は本当に悪いと言います。たしかに都心ですらあまり活気がなく、衰えゆく国とはこういうものかと実感します。

ただ、人々の考え方や生き方は、報道などによるイメージとは異なります。彼らは、決して無責任というわけではありません。例えば、欧州連合(EU)などから借りたお金は返さなければいけない、ということは皆、承知しています。そして財政緊縮の中、給与・年金減、増税など「痛み」に耐えています。

日本でよく報じられるのは、緊縮反対派の激しいデモです。しかし「首都緊迫」というのは大袈裟です。実際には、ごく一部の若者らによる小さな動きにすぎず、ほとんどの人は冷めた目でそれをみています。

諦めムード

要するに、今のギリシャを覆うのは「諦めムード」です。現政権への支持の背景にもそれがあります。

振り返ると7月、EUが求める財政緊縮策の賛否を問う国民投票が行われました。その結果、緊縮反対票が多数を占めました。世界中の人は、ギリシャのユーロ離脱が現実のものになる、と身構えました。

ところがチプラス首相はその後、EUの要求を呑んだのです。現地でも、あの投票は何だったのかと首をかしげる人もいます。にもかかわらず非難の声がさほど高まらないのは、国民の「諦め」のためでしょう。首相については「いい人」と言う人もいれば、「うそつき」と言う人もいます。ただ、ほかに比べればよい、との理由で支持を得ているようです。しかし、消去法的な支持がいつまで持つかは不明です。

「ユーロ圏に残りたい」

それでも、今回聞いた人の全員がユーロ圏に残りたいと言っていました。アテネでは、収入減にもかかわらず物価は日本と同じ程度です。旧通貨ドラクマに戻れば(そんな通貨は誰も信用しないので)インフレが加速し、生活は一層困窮するでしょう。その点に加え、ギリシャは石油や食料の多くを輸入に頼る国であり、ドラクマでは他国からそれらを買えなくなるかもしれない、という点も理解されています。

7月以降、ギリシャの構造改革を条件にEUは金融支援の継続を決めました。これでギリシャがユーロから今すぐ離脱する可能性はなくなりました。銀行への資本注入も決まり、一旦流出した預金も戻りつつあります。ただし、構造改革といっても経済活動を活性化させる施策は不十分です。そのため財政再建は行きづまり、来年夏にはギリシャ危機が再燃する、という説もロンドンなどでは囁かれています。

難民危機とギリシャ

しかし結論を言うと、近い将来に、ギリシャがユーロからの離脱に追い込まれるという結末にはならないでしょう。

欧州では現在、最大の問題は「難民」と「テロ」です。それらへの対処で欧州の結束が試される中、ギリシャをユーロから追い出せば余計な混乱を招くでしょう。ギリシャはシリア難民の経由地となっているだけに、なおさらです。

その上、ユーロから離脱すればギリシャ経済は崩壊し、それ自体が新たな移民・難民の発生源となりかねません。そうした悲劇を防ぐため、EUはギリシャを支援し続けるしかなさそうです。これは今や、人権問題でもあるのです。

 

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