楽天証券投資Weekly 2013年12月6日 第66号

2013/12/06

マーケットコメント:日経平均は終値ベースで年初来高値を更新した後、調整に入る。

日経平均は高値更新後調整に入った:2013年12月2日の週の株式市場は、前週までの強気相場に対して調整する展開となりました。

日経平均は11月28日終値で15,727.12円を付け、5月22日終値15,627.26円を抜き終値ベースで年初来高値を更新しました。その後も堅調に推移し、今週に入ってからは12月3日終値で15,749.66円を付け、再び年初来高値を更新しました。

しかしその後は、11月8日安値14,026.17円から12月3日高値15,794.15円まで1,767.98円、12.6%上昇したことに対する短期的な警戒感と、12月6日公表予定のアメリカ雇用統計の中身によっては、金融緩和縮小が早まるという見方が浮上し、まずニューヨークダウが11月29日から5日連続で続落しました。日経平均もこれを受けて12月4日に前日比341.72円安、15日に同230.45円安と2日連続で大幅安となり、12月3日に15,700円台だったものが、2日間で15,100円台に下落しました。為替レートも、2日、3日に一時1ドル=103円をつけたものが、6日には1ドル=101円台の円高となりました。

もっとも、6日の日経平均は、15,000円どころにある25日移動平均線の手前で反発しました。前場は重たい展開でしたが、後場に入って上昇し、前日比122.37円高の15,299.86円で引けました。

今回の大幅下落には、上述のように急ピッチで上昇してきたことに対するスピード調整という面と、6日発表のアメリカ雇用統計に対する警戒感という二つの面があります。スピード調整は当然あるべきものであり、良い押し目形成であると思われます。アメリカ雇用統計に対する警戒感については、アメリカ雇用統計が悪ければ、金融緩和が続くことになり、短期的には為替レートが円高に傾くことはあっても、アメリカの金融緩和継続は株式市場にとっては好材料です。アメリカ雇用統計が良かった場合は、金融緩和早期縮小論が出たとしても、アメリカ経済の好調は日本経済の好調に繋がります。これも中長期的には良い材料でしょう。

現状はアメリカ雇用統計の中身を待つしかありませんが、良い押し目が形成されたならば、そこは来年へ向けての買い場となる可能性があります。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 ドル円レート:日足

当面は、自動車(トヨタ自動車本田技研工業富士重工業マツダ日野自動車いすゞ自動車デンソーなど)、電機(パナソニック村田製作所日本電産など)、不動産(三井不動産住友不動産東急不動産ホールディングスなど)、建設(大成建設熊谷組など)、建設機械(日立建機タダノなど)に注目したいと思います。

自動車は、傾向的に円安となっており、業績が好調なわりにPERが10倍台の前半と安いことが注目点です。民生用電機はパナソニックのようにリストラが進展して、新しい成長路線に入る企業が出ていること、電子部品ではスマートフォンだけでなくタブレットPCが大きな分野になりつつあること、ウェアラブルデバイスが新たな需要分野になりそうなこと、自動車の電子化が急速に進んでおり、最近では自動運転、自動危険回避の分野で電機メーカーがかかわるケースが増えてきたことに注目したいと思います。

また、建設は大手から準大手まで、労務費、資材費の上昇を工事単価の転嫁する動きが今期に入って進んでおり、これが、来期に業績向上へ結びつくと思われます。復興需要だけでなく、地方の河川の災害対策、道路、橋、トンネルの補修、東京の大型再開発と全国的に工事が多く、建設だけでなく、建設機械やトラックの需要増加が続くと思われます。

地価についてみると、今の金融情勢と不動産の需給動向から見て、来年も地価上昇も続くと思われます。大手不動産会社のPERは高いですが、地価上昇が株価の支援材料となると思われます。

グラフ3 建設投資(名目)の推移

アベノミクス1周年を評価する:今の大相場の起点は、野田前首相が衆議院解散を宣言し、安倍首相が円安への口先介入を始めた2012年11月14日だと思います。この日から日経平均の上昇と大相場が始まりました。

2012年11月14日から1年以上が経過して、来年の相場に対する展望が必要な時期が来ました。これは安倍政権への評価になりますが、円安、大幅金融緩和、事業規模20.2兆円(うち国の財政支出10.3兆円)の緊急経済対策、東京オリンピックのいずれもが、日本経済を浮上させる重要な政策となりました。民間の動きでリニア中央新幹線の建設が決まったことも重要です。

まず、円安は輸出企業の業績、特に自動車セクターの業績を急回復させました。税収だけでなく、部品、材料、雇用を通じた他産業への波及効果には大変大きなものがあります。

次に、大幅金融緩和は、特に2011~2012年頃から始まった不動産セクターにおける大型再開発ブームを後押しすることになりました。東京、大阪、名古屋で地価が着実に上昇していますが、これによる資産効果が既に経済の各所で見られるようになりました。また、円安を支える効果も無視できません。

緊急経済対策も、復興、防災対策を通じて、全国で土木工事を活発化させました。景気の浮揚効果が出てきました。

そして、東京オリンピック、リニア中央新幹線は、円安、大幅金融緩和、緊急経済対策によって浮揚した日本経済が長期的に成長するドライバーとなりそうです。

このように見ると、安倍政権の経済政策はいずれも基本的には合格であった、少なくとも民主党政権のそれより、はるかに成果があったと言ってよいと思われます。

様々な問題もある:ただし、問題点も見えてきました。

一つは建設現場における労務費の問題です。日本の建設投資は1996年から2011年まで減り続け、2012年からようやく回復し始めましたが、15年間減少し続けた結果、労働者の数が大きく減少しています。特に、鉄筋工、型枠工、現場監督、ダンプカーの運転手などが不足していると言われています。労務費の地域的な格差も大きくなっており、東北の被災地に対して大型再開発が相次ぐ東京の労務費が高くなっています。

この状況が続けば、地方から東京へ建設労働者が移動し、被災地を初めとした地方の建設工事と景気に悪影響が出てきかねません。今の建設工事の多くは、かつて批判された不要不急の「ハコ物」とは違い、河川への洪水対策、公共的な建物への地震対策、道路、橋、トンネルの補修、事業継続対策を施したオフィスビルなど、経済成長にとって重要なものが多くなっています。政府は消費税導入に伴い懸念される景気腰折れを防ぐために、事業規模18.6兆円、国の財政支出5.5兆円の経済対策を発表しましたが、慎重に運用しないと建設現場の労務費がさらに上昇し、新規の工事着工がやりにくくなるという副作用も予想されます。また、財政の問題も重要であり、財政再建への道筋を示して金利上昇を防ぐことが求められます。

安倍内閣の政治姿勢にも、問題が見られるようになりました。

民意が安倍政権に求めてきたのは、経済対策であると思います。上述のように一連の経済対策は十分な効果を挙げつつあり、実は少子高齢化で1,000兆円以上の重債務を抱える日本ではこれ以上の景気刺激策は、当面はとらなくとも良いのではないかとも思われます。人件費の急上昇や金利上昇の懸念があるためです。

しかし、だからといって政治課題だけに取り組めばよいというものではないと思われます。特定秘密保護法は、その運用次第では、株式市場、債券市場にとって問題になる可能性があると思われます。これは、例えば原発情報を政府が過度に隠すことが、電力会社の財務内容にブラックボックスを生じさせ、電力株、電力債の評価を引き下げることが全くないとは言い切れないということです。このことは防衛産業についても言えると思われます。

また、資本市場は往々にして一つの事象について範囲を拡大して考えるものですが、もし政府が原発や防衛を過度に隠そうとしたら(資本市場から見てそう見えたら)、そのような政府が政府財政の中身を正直に開示しているか確信が持てなくなる投資家やアナリストが出てくるかもしれません。これは日本国債の評価、即ち金利にかかわる問題になります。

安倍政権の原発に対する態度も今後問題になるかもしれません。政府は原発再稼動に熱心で、原発新増設の可能性をも残しておきたいと考えているように見受けられます。しかし、原発が稼動していた2011年3月の東日本大震災の前と今では、原発に対する人々の認識や日本を取り巻く国際環境は大きく異なっています。原発のリスクは広く知られるところとなったと思われます。あるいは、日本の周辺には、中国のような友好的でない軍事大国があります。

また、原発再稼動が進めば、政府がそう意図しなくても、再生エネルギーの開発が低調になる懸念があります。

このような中で、何らかのアクシデントが起これば重大な結果をもたらす原発を主要な電源としておくというのは、日本経済にとってリスクが大きいように思われます。

基本的には来年も順調な経済成長が期待できよう:私は、日本経済の中に問題が多いとは考えておりません。政府が無理な景気刺激策を取らなければ、来年も順調な経済成長が見込まれると思われます。特にトレンドとして円安になっていることと、着実な地価上昇が見られること、2020年前後まで続く東京の大型再開発に続いて、東京オリンピック、リニア中央新幹線が出てきたことは、しっかりとした経済成長を日本で実現するための好材料であると思われます。

ただし、経済の外、国内政治、国際政治には様々なリスクがありそうです。来年はそれらのリスクに注意する必要がありそうです。

12月9日の週のスケジュール:日本では12月9日(月)に7-9月期GDPの第二次速報、景気ウォッチャー調査が公表されます。11日は10月の機械受注が公表されます。

アメリカは、12日に10月の小売売上高が公表されます。

欧米は、11月28日のサンクスギビングデイが終わったあと、クリスマス商戦に突入しています。クリスマス商戦の売れ行きを報じる記事に注意したいと思います。

経済カレンダー
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/calendar/
表1 楽天証券投資WEEKLY


グラフ4 信用取引評価損益率と日経平均株価


グラフ5 東証各指数(12月5日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化


グラフ6 輸出・グローバル関連:12月5日までの株価を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

グラフ7 内需関連
(12月5日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)


グラフ8 金融関連
(12月5日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)


グラフ9 素材、情報通信
(12月5日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)


グラフ10 日米金利差


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楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
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