ロボでも人間でも運用アドバイザーは何を訊くべきなのか? (その2)

2016/07/26

 (4)インフレ・リスクのヘッジは、案外重要ではない。

「老後」と「インフレ」に対する不安は、「貯蓄から、投資へ」(丁寧に翻訳すると「もっとリスクを取って、手数料をたくさん払って下さい」という意味のキャッチフレーズだ)を推進しようとする運用業界にとって二大商材だ。

このうちの一方であるインフレのリスクだが、よく考えるとこのヘッジを意識すべき理由は、個人の運用にとって案外乏しい。少なくとも、運用の主目的と考えるのはいかがなものか。

それは、前記のように運用計画の現実的な想定期間が案外短いからで、長期間のインフレを意識したポートフォリオ運用など必要ないからだ。

先入観を捨てて考えてみよう。

一定期間運用してみて、インフレよりも儲かっていたとしても何も困るまい。一方、インフレが昂進している時に、インフレに勝とうとしてリスクを取る事に無理があるとすれば、無理にインフレを競争目標にしないことが適切だ。すると、その時々に、「無理のないリスクの範囲で、効率よく稼ぐ」ことだけを考えていれば、十分だということが分かる。

毎回毎回同じポートフォリオが最適だとは限らないが、前提条件を大きく変えられるほどの情報や判断を持つことはプロアマ共に稀なので、運用に大きな変化が頻繁にあるとは思えないが、運用計画を作るたびにインフレを意識する必要性は、普通の個人にあってそれほど大きなものだとは思えない。[1]

この点については、個人もアドバイザーも「目を覚ます」方がいいのかも知れない。

インフレ以外のリスクについても、例えば、電力会社に勤めているのと、自動車会社に勤めているのとでは、為替リスクが生活に与えるリスクが異なるので、将来給与所得の割引き現在価値と金融資産の運用とを合わせて運用ポートフォリオの最適化を行うといいという議論はあり得るが、この点を訊いているロボアドバイザーは、まだ見たことはない。また、インフレにしても、為替レートが与える収入へのリスクにしても、他の金融資産のリスクとの関係を十分実用になる程度に正確に推計することは、簡単ではない。

厳密な最適化はさておき、個人への資産運用アドバイスの、少なくとも簡便な方法としては、特定のリスクのヘッジを考えるよりは、「無理のないリスクの範囲で、効率よく稼ぐ」ことを考えていたら十分なのではないか。

 (5)運用の目標額は、訊かなくていい。

将来の目標金融資産額を持つことは悪いことではないが、それは、主として貯蓄で達成すべき目標であり、運用方法で解決しようとすべき問題ではない。「人生の大問題は、運用方法だけで解決できるものではない」と心得よう。

また、結果的に、目標額以上に運用で儲かったとしても、お金は(普通は)何ら邪魔になるものではない。

将来の目標資産額を意識させて、顧客をリスク資産運用(傾向としてはより手数料率の高い運用)に駆り立てるのは、運用業界の常套手段の一つだが、良心的なやり方だとは言えない。

 (6)年齢は運用内容に案外関係ない。

取る事が出来るリスクの大きさを別途判断できるなら、年齢が若くても高齢でも、リスク資産と無リスク資産への配分比率が変わるだけで、それぞれの中身は変える必要がない。

また、現実には、1年では少し短いかも知れないが、2、3年あれば個人の資産運用期間としては十分な期間であり、長期運用はそうした運用を継続していった結果に過ぎない。

つまり、年齢は、運用内容を考える上で、それほど重要な要素ではない。高齢者であっても、判断力がしっかりしているなら、ポートフォリオに歳を取らせる必要はない。投資家は、若くても、高齢でも、効率の悪い運用リスクを取ることを嫌うはずだ。運用アドバイスのレベルで、年齢によって安易に差を付けることは適切ではない。

(7)但し、二段階の高齢化リスクには対応が必要だ。

現実観察の問題として、個人差はあるが、高齢化が進行した時に、典型的には二段階でリスクが生じる。

第一段階は、他人、特に金融機関のセールスマンを「信じたく」なったり、「頼りたく」なったりする、他人依存傾向の強化だ。高齢化すると、話し相手が欲しくなったり、物事それ自体ではなく物事を持ち込んだ「人」で安直に判断したくなったりするのかも知れないが、本来大いに警戒すべき存在なのに、金融機関のセールスマンを「この人はいい人だ」と信じて任せる傾向が強化されることが多い。例えば、多くの高齢者が、本当にブラジル・レアルの為替のリスクやメカニズムについて理解して、毎月分配型の投資信託を購入したとは思えない。セールスマンを信じたのだろう。

第二段階の問題は、高齢化に伴う判断力の減退や記憶の消失のリスクだ。たとえば、ヘソクリのために持っていた預金の存在を忘れてしまうといったことがあり得るし、10年間動きのなかった預金について、資金移動の記録を請求しても銀行が対応してくれない場合があり得る(法令上取引記録の要保存期間は10年である)。本人だけしか知らない場所にある資産は、本人が急死したり、認知症が急に進んで記憶がなくなったりすると、家族が取り戻すことができなくなる場合があるのだ。

高齢化の二つのリスクに対しては、本来適切な対応が必要だが、第一段階のリスクは売り手やアドバイザー側から「ビジネス・チャンス!」と見られているのが現実だろうし、第二段階のリスクに関しても適切な手が打たれていない場合が多い。

今のところ、ロボも人間も、十分に対応してくれないリスクなので、投資家本人と家族は大いに気をつけたい。

 (8)インカム収入の必要性は、聞くこと自体が不適切。

人間のアドバイザーやロボアドバイザーのエンジンで、安定したインカム収入にニーズがあるか否かを訊くものがあるが、これは、質問自体が不適切だ。

例えば、高齢の年金生活者であっても、リスク資産で運用できるような金融資産額を持っている人は、普通預金等に十分流動資産を持っているはずであり、これを取り崩すといい。リスク資産から、利子・配当・分配金などが「必要」な訳ではない。

結論を言うなら、インカムゲイン・キャピタルゲインの別にこだわらずに、トータルで効率の良い方法を教えるべきであって、インカムゲインにこだわることで資産運用の効率が損なわれることの不利益を知らせるのが正しいアドバイザーの行為だ。

投資家の側では、わざわざインカム収入の必要性を訊くようなアドバイザーは能力以前に誠意の有無のレベルから疑って掛かるべきだ。

 (9)リスクへの態度は聞いてもいいが、大きく影響されるべきではない。

個人に対するアドバイスを作る場合、個人がリスクをどの程度「嫌うのか・嫌わないのか」は意識したくなる項目だし、顧客がアドバイスを現実にどれだけ受容するかに影響する。アドバイザーとしては、今後のビジネスにも影響する可能性が大いにある。

しかし、運用でリスクをどれだけ取るのが適切なのかを決める最大の要素は投資主体の「財務的な強さ」である。

性格テストのごとき質問で顧客の「リスクへの態度」を分類して、ポートフォリオを大きく変えることが、運用の客観的なアドバイスとして良心的で好ましいことだとは思えない。理事長や常務理事の性格で、企業年金のリスクテイクの大きさを変えることが好ましくないのと同じ理屈だ。

(10)確定拠出年金とNISAは考慮に入れてアドバイスする価値がある。

ロボアドバイザーで、投資家の確定拠出年金とNISAの状況について質問しているものを見かけないが、どうしたことだろうか、と思う。直接的に自分の商売に関係ないからどうでもいい、と思っているなら、親身のアドバイザーとはいえない。

先ず、確定拠出年金とNISAは、これを十分に利用していない人が多数いる。また、利用しているとしても、最適な利用法が分かっていない人が非常に多い。加えて、確定拠出年金やNISAに割り当てる運用資産と、アドバイスの直接的な対象になる資産も含むそれ以外の資産との間には、トータルの配分と、それぞれに最適な置き場所について、算術的な計算で決めることが出来るし、また、そうした考慮が必要だ。

特に、中所得クラスの個人顧客にとっては、確定拠出年金とNISAを含めた資産運用のアドバイスが、顧客にとって有用な内容であると同時に、アドバイスをする側にとっても付加価値を提供できる有力な分野ではないかと思う。今後に期待したい。

以上

[1] 物価との相対関係を明示的にポートフォリオ最適化に取り入れたい場合は、負債ポートフォリオとして、物価上昇率をマイナスリターンとするポートフォリオのリスク(標準偏差と相関係数の両方)と期待リターンを資産と合わせて最適化すればいい。

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