トランプ政権の本質とドル高

2018/07/12

【ストラテジーブレティン(203号)】

多くの市場参加者にとって想定外のドル高が進行している。武者リサーチは長期的ドル高時代が始まると主張してきたが(ストラテジーブレティン173号2016年12月14日「2017年情勢の基軸、強い米国経済、強い大統領、強いドル」、175号2017年1月12日「トランプ政治の影の主役、強いドル」、177号2017年2月3日「トランプ政権の本質、保護主義ではなく帝国主義~守りではなく攻撃~」、195号2018年3月5日「円高論に対する懐疑」など)、その可能性がいよいよ強まっている。

(1) ことごとく覆されるドル安論の根拠

現在の情勢はかねてからのドル悲観論者の根拠をことごとく裏切るものとなっている。

1) 景気拡大10年目と戦後最長になった米国経済がリセッション入りする、
2) 低インフレ・低金利・資産価格のバブル化が格差拡大と成長率の低迷と同時に進行しており、それは米国資本主義の衰弱を示す、
3) ドル高7年、ドル安10年の長期ドル循環は2017年からドル安局面に入った、
4) 貿易戦争、関税引き上げはドル安をもたらす、
5) トランプ大統領の保護主義は米国通貨安を必須とする、

などは全てが誤りであることが明白になりつつある。

米国経済がリセッション入りする兆候は今のところ皆無、最低2020年まで景気拡大が続くという見方はすべてのエコノミストとFRBなど当局で共有されている。米国経済がインターネット、AIなどの産業革命の母国であり世界で最も経済活力にあふれていることも今更、説明する必要はない。

また循環論からのドル安論が根拠薄弱であることは、ブレティン195号で以下のように説明した。「円高論の最大の根拠は長期ドル循環の波動がすでにドル安局面に入っている、というものである。40年余りのドル循環を振り返ると、ドル高7年、ドル安10年がサイクルであり、それを当てはめれば、2011年から始まったドル高は2017年にドル安に転換したというわけであるである。しかし、ドルの長期循環を支配してきた主要因は米国経済事情と政策の優先順位であつた。米国国内経済の充実期は、インフレ抑制、バブル警戒、対外投資促進に優先順位が置かれ、金融引き締め、ドル高が対応した(1978~1985年、1995~2001年、2011年以降)。逆に国内経済不振時には、景気てこ入れ、デフレ回避、輸出競争力強化に優先順位が置かれ、金融緩和とドル安が対置された(1973~1978年、1985~1995年、2001~2011年)。では現在の米国経済情勢と政策の優先順位はどうだろうか。米国経済が充実期であり、デフレよりはインフレのリスクが高く、資産バブル警戒にますます重点が置かれていることは明らかである。とすればドル高に筋があるということになる。今回のドル高の起点がいつかも重要である。2011年から2014年まではドル高といっても底這いに等しく、米国の超金融緩和(QE)の下でドルは歴史的安値水準で低迷していた。本格的にドル上昇が始まったのは、QE3が終わりFRBのバランスシート拡大が止まった2014年後半からである。事実上のドル高は始まってからまだ3年余りともいえるわけで、長期ドル安局面に入ったとする議論は説得力があるとは言えない。

 

 

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