【新潮流2.0】 第48回 不誠実な記憶

2018/05/14

◆明治生まれの文学者・辰野隆に萩原朔太郎、ジョージ・オーウェル。文学者だけではなく、犬に雉(きじ)といった動物も。先週行われた元首相秘書官・柳瀬唯夫氏の国会参考人招致を受けて、主要各紙の1面コラムが話の枕に使ったネタである。<編集手帳>は辰野隆の『記憶ちがい』という短編と朔太郎の『記憶』という詩を引いた。もちろん、柳瀬氏の迷言「記憶の限りではない」にかけてのことである。<余録>が引いたのはオーウェル『1984』の一節だ。「過去を支配できるかどうかは何より記憶の訓練にかかっている」。

◆エリート官僚の柳瀬氏は、それこそたくさんお勉強して「記憶の訓練」を積んできたのだろう。しかし、記憶力の良さ=頭の良さではない。官僚たるもの頭脳の優秀さよりもっと大切な資質がある。<天声人語>は平安王朝の能吏、橘良基の言葉を引いて、国を治めるには「清さ」が大事と説いた。巨額のカネや利権が絡んだわけでもなく、事の軽重で言えばたいした話でない「モリ・カケ」がここまで国民の不興を買うのはなぜだろう。それは、清さの正反対「不誠実」という感覚が拭い去れないからだろう。政治家と官僚がグルになって隠そうとする醜態が見るに堪えられないからでもある。

◆動物の枕はこうだ。<春秋>は雉の隠れ方は「頭隠して尻隠さず」で、柳瀬氏は躍起に否定してみせるも、かえって疑惑を膨らませてお尻が見えたと切り捨てる。「対応に追われる面々は妙に鳴いて撃たれるキジみたいだ。もっとも、そうこうするうちに猟師の鉄砲の弾も尽きると踏んでいるかもしれないが。」と結んだ。<筆洗>は、昔の英国軍で飼い主の兵士とともに戦場に赴いた忠犬の話を紹介した。忠犬と元秘書官のアナロジーは想像に難くないが、この犬は飼い主の兵士が戦死すると飼い主に代わって大砲に火をつけたという。<春秋>と<筆洗>の連携プレーを紐解けば、雉もやはり撃たれる、という暗示に思える。

◆今日は衆参予算委員会で加計問題の集中審議が開かれるが、いつまでも「モリ・カケ」にこだわっている場合ではない。米朝首脳会談の日程・場所が決まるなど、世界は大きく動いている。6月20日の今国会会期末まで残り1カ月余り。働き方改革法案にTTP関連法案など通さなければならない重要法案が目白押しだ。これ以上不毛な時間を費やすのではなく、立法府本来の姿を取り戻してほしい。ところで、犬、雉、とくれば猿は登場しないのかって?猿は、もういいだろう。これまでさんざん「猿芝居」を見せられてきたのだから。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆

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