長期的な企業価値の追求

2018/03/19

・2月にICGN-IIRC東京カンファレンスが催された。コーポレートガバナンスの世界的な組織(ICGN)と統合報告に関する国際的な組織(IIRC)が共同でセミナーを開いたもので、テーマは‘長期的な企業価値の追求’であった。ICGNは機関投資家サイドであり、IIRCは企業サイドである。2日間で議論になった論点から、筆者にとって興味深い点を取り上げ、意見を述べてみたい。

・この3年で日本のコーポレートガバナンス(CG)は様変わりとなっている。2014年にSSC(スチュワードシップコード)、2015年にCGC(コーポレートガバナンスコード)が導入され、形式中心といわれながらも、実態は大きく改善している。課題は多いが、目に見える改善が稼ぐ力の向上にも結びついている。

・SSCは2017年に改定され、CGCも2018年の改定を予定している。SSCの改定では、1)利益相反を避けるために外部に目を入れ、2)議決権行使において個別結果の開示を促し、3)アセットオーナーの役割も明確にしようとした。

・CGCの改定では、1)資本コストをもっとはっきりさせ、2)経営判断が明確になされ、3)人材やR&Dなどへの新しい投資を活発化させ、4)それを担うCEOの選任をより明確にして、5)余分の株式保有などを見直すことが求めるようになろう。

・日本企業のROEは改善しつつあるが、それでもまだ十分とはいえない。ROICやROEを重要なKPIと設定する企業は増えているが、一番肝心の売上高利益率(税前)が低いままの企業も多い。日本の売上高利益率は10%以下が全体の9割で、欧州ではこれが7割、米国では3割である。儲かっていない事業や低収益の企業が存続できていることが問題であり、ここの再編が引き続き問われている。

・バランスシートにはキャッシュが貯まっていると判断されるが、これをどうするのか。投資機会を活かして、もっと投資せよ。しかも、投資するからには、資本コストを超えてきちんと稼いでほしい。そうでなければ、配当方針をはっきりさせて、株主に返してほしいと機関投資家はいう。当然であろう。

・では、どこに投資するのか。人材、R&D、M&Aというが、本当に企業価値の向上に寄与しているのだろうか。従来の慣習に捉われて、惰性の経営になっていないか。もっと見直す必要がある。

・日本企業に特有の株式の政策保有(持ち合い)は少しずつ減り始めているが、今後どうなるのだろうか。伝統的な慣れ合いと経営者の保身のために、持ち合いはなくならないのではないか、という疑念は強い。ビジネスに役立つ株式保有であると説明されても、必ずしも納得できないものが多い。結局、そこにはガバナンスを効きにくくする甘えの構造があるものとみられてしまう。

・日本は統合報告書(IR)の先進国である。昨年は世界で1600社を超えるIRが発行されているが、そのうち日本は350社を占める。数は急ピッチで増えているが、中身はどうであろうか。IIRCのフレームワークをベースに、統合思考(インテグレーティッド・シンキング)を取り入れて、企業価値創造が語られているであろうか。

・財務報告とCSR報告の合体に留まっているという面も依然として強い。ESGは企業価値創造と結びついているか。SDGsは考え方として理解ができても、自社の価値創造プロセスに取り入れることができるだろうか。改善は著しいが、まだまだ課題は多い。

・日本企業の経営課題は、1)ROEが低い、2)キャッシュを貯め過ぎている、3)リスクをとらない、4)雇用の流動性が低い、という点にある。これをどうみるか。ROEが低いのは、自社の効率だけを追求するわけにはいかない面がある。製造業ではすり合わせ技術が重要なので、いいものを作っていくプロセスにおいて、事業として弱いものや一見いらないものも、持っておく必要がある。確かに、そのような内容が企業の強さを支えているともいえる。

・すり合わせ技術は、日本国内の同じ考え方に基づくバリューチェーンの中なら効果を発揮するが、グローバルな事業展開にすり合わせを求めると、うまくいかないことが多い。海外の企業にはなかなか馴染まないからである。別のビジネスモデルの構築が求められる。

・内部留保を貯め過ぎているのではないかといわれても、リーマンショック後に酷い目に合っており、キャッシュに余裕がないといざという時に苦労する。マネジメントはリスクをとらないといわれても、十分な勝算がないプロジェクトや案件に投資するわけにはいかない。トップとしての責任をとるには、慎重にものごと進める必要がある。それが悪いとは言えないが、不満が残るのも事実である。

・日本の雇用は、主力の正社員にとっては長期雇用が前提で、儲からない事業や本業でない事業を切り離すと言っても、正社員は事業についているのではなく、会社に属している。事業と一緒に人も出してしまうわけにはいかない、という考え方は根強い。

・これに対して、従来の制度や考え方があるにしても、ビジョンを固め、第一義的にROICやROEの目標を明示的にかかげ、ROS(売上高利益率)についてもマネジメントがコミットして、それらの向上を実践していく必要があろう。

・社外取締役は執行サイドのマネジメントを監督し、助言をして、ビジネスモデルの変革を迫っていく必要がある。CEOの選任についても、いざとなったら代わってもらうことを要求し、次のCEOの育成も監督していくことが求められる。日本企業は今ここが問われている。

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