昨日の敵は今日の友~日本電産のM&A

2018/02/04

・11月に、日本電産の永守社長の講演を聴いた。いつもながらの永守節は、ビジネスの実態を学ぶことのできるビズエンタメであった。圧倒的な迫力はビジネスに関するエンターテインメントとして感動した。

・日本電産は1973年創業、自宅において3人で起業して45年、売上高1.45兆円、営業利益1700億円(売上高営業利益率12.0%)、時価総額4.9兆円に成長している。この成長の50%がオーガニックな内部成長、50%がM&Aによる外部成長の寄与によるものである、と永守社長は語る。

・M&Aは何のためか。規模の拡大を狙ったものではなく、強い会社を創るためである。M&Aは1980年代からスタートしたが、当初は貧乏だったので国内のただ同然の安い会社を買った。倒産寸前の会社を買って、再建に力を入れた。労力をいとわず、手間暇をかけた。永守社長は、倒産した会社は絶対に買わない。その一歩手前で救済に入った。

・2000年以降、海外企業のM&Aを活発化させた。海外の企業を買おうとすると、安くない。経営上のリスクも高い。欧米の企業は、1)最も高く売れる時に売ろうとする、2)しかも必ず化粧をしてくる。従って、例えば売上高営業利益率が10%あっても、のれんの償却で5%とられてしまうと、M&Aが上手くいっても5%の利益率からスタートすることになる。

・日本電産は、これまで56社を買収したが、その6割近くが海外の企業である。買収に当たっての基本条件は3つである。第1は価格で、高値買いはしない。永守式企業算定方式を確立しており、無理はしない。日本企業のM&Aをみていると、8割は高値買いをしており、しばらくすると減損を出してくる。これではダメだという。

・第2は、買収後の経営(PMI、Post Merger Integration)を誰が行うかである。海外企業のM&Aの場合、日本人では経営できないとみている。米国に行って、いろんな企業のトップに会っているが、現地企業のCEOやCFOで日本人に会ったことがないという。人心を掌握して、米国企業のマネジメントのできる日本人はほとんどいないという判断である。

・では、どうするのか。経営は現地のマネジメントに任せる。日本電産は株主として関与する。日本企業はこのPMIが弱い。海外の企業を買ったら、それで戦略は完了、英語のできる日本人を送ってマネージしようというパターンが多い。M&Aが上手くいくかどうかの8割はPMIに依存するが、ここが下手である。

・第3は、シナジーの追求である。海外の企業はなかなか安く買えない。少し高くなる場合もある。高い分はのれん代が増え、それを考慮すると利益率は下がる。これをカバーするには、本体とのシナジー(相乗効果)を出して価値を上げ、利益率を10%以上に高める必要がある。このシナジーの追求にも工夫がいる。

・永守式M&Aには、さらに3つの原則が加わる。第1が「パズル方式」である。どの会社を買いたいかのリストは常に作って持っている。それを福笑いの顔に見立てると、まず目となる企業を買い、次に耳、鼻、口と揃えていく。その順番が大事で、順番を間違えるとシナジーが出ない。

・こちらが欲しい企業のリストを持っていても、売るのは先方であり、こちらの自由にはならない。欲しい企業のCEOには、毎年、永守社長がレターを出す。大半は、今は売らないとの返事だが、売る時には必ず一番に声がかかる。これまでの買収には平均5年間待った。最長では16年かかったこともある。つまり、きちんと準備して行動している。

・第2は、「一郎方式」である。分不相応の大企業を一発屋的に買わない。ヒット、ヒット、フォアボール狙いのM&Aを実行している。時価総額の5%が1つの上限である。現在でいえば、2000~3000億円の企業までを対象とする。それ以上の大企業を買うと減損した時の負担が大きいので、そういうリスクは取らない。毎年何社かをコツコツ買っていく。その企業の利益率を10%に高めて、そのキャッシュ・フローも含めて次のM&Aに進む。

・第3は、「つめもの方式」である。お城の石垣をみると、大きな石の間に小さい石がいっぱい入っている。これによって、石垣は強固になり崩れない。つまり、1社を買収したら、その会社を強くする要素企業を数社買って、全体を強くする。これがシナジー追求における根源的な方策であると強調する。

・買うべき会社を決めていても、相手の都合もあるので、いつまでに実現するかはわからない。昨年は、仏、独、英の会社を買収した。その後に別の会社から話がきたが、すぐには動かなかった。今を逃すと後悔するという声も出たが、あせらないことである。まずは3社の成果を出してから、次の攻めに入るという姿勢は一貫している。

・チャンスを逃すと悔いが残るという人もいるが、慌てるともっと悔いを残すことになる、と諭す。それでも、時には永守式算定価格に合わないケースもある。今手にいれないと戦略上不利になると判断した時には、3割高くても買うことはありうるが、その場合、収益向上も通常より3~4年遅れることになる。

・M&Aは辛抱であると強調する。焦ると失敗する。横並びでも失敗する。業績のよくない会社は、マネジメントも今1つである。業績のよい会社はマネジメントも充実しているが、買収価格が高いので、リターンの回収に時間がかかる。

・M&Aは成長戦略のカギであるが、膨張戦略になってはならないと警鐘を鳴らす。投資銀行にのせられて、絶対に高値買いはするな、と戒める。金があれば企業は買えるが、PMIで失敗する。どの企業も化粧をした事業プランを持ってくる。その中身を見抜く目利き力が問われる。

・PMIのコツは、株主としての的確なサポートにある。経営は現地に託すが、ターゲットははっきりさせる。それができない時はトップに交替してもらう。永守社長は昨年のある時期5日で7カ国の子会社を回ってきたが、会社を見て、工場を見ると、何をすべきか、誰に任せるべきかがすぐ分かるという。

・40カ国に318社を有するので、現地の工場やマネジメントが困っていれば、すぐに別のグループ会社の適任者をサポートに出す。サポートをいかに迅速に行えるかが重要である。つめものM&Aでは、例えば、買収した会社が重要部品を外部から購入していたので、その部品会社も買収して補強することにした。これによって、利益率を数%アップさせた。

・トップ自ら現地に出向いて、意識改革とサポートを実践する。共通目標は、営業利益率10%が最低ラインで、15%なら合格である。買収した会社の収益が10%を超えたら、次のM&Aに向かう。

・M&Aにおける永守式経営のもう2つの要諦は、①ハンズオンと②マイクロマネジメントである。外部に対しては、10兆円企業を目指すと大ボラを語りながら、社内に戻ったら、明日にでも会社は潰れるかもしれないという厳しい姿勢でマネジメントに当たっている。M&AにおけるPMIでも、トップ自ら細かいところに目配せしている。

・M&Aでは、素質のよい会社を買う。価格の高い会社ではない。いい素質を持ちながら、十分な投資ができていない会社、成長戦略が打てていない会社を買う。そこでPMIとシナジーを追求し、いい会社に仕上げるのである。

・相手の会社には、一緒になって世界№1になろう、と声をかける。これが殺し文句であり、昨日の敵は今日の友である、と説得する。More Make Moneyと言って共感を得る。永守式M&Aは、これからも成功を続けよう。

・強烈なリーダーシップがかなり組織能力にはなっているが、より自立的に動けるかどうかが課題である。投資家としては、企業のM&Aを評価する時、永守式<3原則+3方式+2要諦>に着目して、大いに活用したい。

株式会社日本ベル投資研究所
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