日立のカルチャーイノベーション~ビジネスモデルの変革

2017/11/09

・10月のアナリスト大会で、日立の中西会長の講演を聴いた。日立のビジネスモデル(BM)をいかに変えるか。まだ道半ばであるが、そのイノベーションは明確で分かり易い。興味深い点をいくつか取り上げてみる。

・世の中は不確実である。価値のぶつかり合いの中で、まさかのことがいろいろ起こる。デジタル化が加速しており、今や製品のスペックをいくら語っても、モノは売れない。モノは使えればよく、自社のものでなくてもよい。時流はシェアエコノミーであり、オープンエコノミーである。

・その中で、より大きな絵を描くことが重要で、ビジネスを起こすには、世の中に仕掛けることが必要である、と中西会長は本音で語る。モノではなくコトについて、壮大な構想を掲げ、それを後追いではなく、先に開発してリードするという作戦が求められる。政府の未来投資会議の柱になった「ソサイアティ5.0」はその典型であると強調した。

・日立は創業107年、30万人の従業員がいるが、昔の分類であるブルーカラーは4万人しかいない。日立が会社を説明する時のセグメント(事業別売上/利益)について、もう従来型のパイチャート(セグメント)では意味がない、いずれやめようと思っているという。

・アナリストからは継続性が大事であるといわれるが、ビジネスの実態をみると、これまでのセグメントであるプロダクト中心ではそもそも注文がとれなくなっている、と指摘する。プロダクトというモノは必要だが、顧客はそれが欲しいわけではない。各々が抱えている課題を解決したいのである。

・日立では、提供する価値は、PS〈プロダクトシステム〉× OT〈オペレーションテクノロジー〉× IT〈インフォーメーションテクノロジー〉の3軸で作り上げると定義する。つまり、ビジネスモデル(BM:企業価値創造の仕組み)を、①コアとなるシステムを、②ITを活用して、③しっかり運用して、継続的なバリューを提供することとしている。

・中西会長は、企業構造改革を3つステージに分けてみている。第1ステップは、①赤字の事業はやめて撤退する、②治療できるものは再建する、③再建した後で売却する、という内容である。テレビはやめた、自動車関連は再建した、HDDはハイリスクなので、黒字にして売った。

・ハイリスクとはどういう意味か。HDD(ハードディスクドライブ)は、事業の浮沈みが激しく、技術もどんどん進化する。年間300億円の赤字を出しながら、次の製品で先行するために800億円の投資をする必要がある。この決定を大企業の日立の社長にさせるのは酷であるという意味である。専業のプロの社長でないと、このビジネスは追えないと判断して売却した。

・第2ステップは事業ポートフォリオの継続的な見直しである。10年間のグループ会社数をみると、901社を減らしたが。831社が加わった。現在864社ほどある。事業を見直し、ポートフォリオを入れ替えているが、M&Aを行うと、グループ企業がすぐに数10社もついてくる。今の864社もいずれ半減させる方向である。

・第3ステップがカルチャー改革で、ここが最も大変であると強調する。2010年までの日立のカルチャーは“いいものはコストがかかる”であった。これは大間違い、と断言する。“高い技術で安く作る”、“安く作れるのが高い技術”と転換した。このことが社会にメリットをもたらす。そのために、工場中心、製品中心、技術中心を変えることにした。バリューチェーンを根本的に変えた。例えば、購買・調達に関して、集約購買(23%→46%)。グローバル調達(28%→44%)を拡大した。

・BMを支える仕組みも次々と変えている。グローバル人材データベースを作り直して、人材の活用を見直した。コーポレートガバナンス(CG)では、取締役13人中社外が9人で、うち5人が外国人、2人が女性である。この社外取締役は、中西会長にとって有効であるという。なぜか。CEOが発言すると、それがそのまま指示になる。そうなると、執行役はCEOを見るようになる。それでは事業が自律的にスピーディに発展しない。

・グローバル企業のCEOを経験した社外取締役は、本質的な質問をする。ビジネスをどのようにみて、いかに手を打つのかという追求は、ほとんどの場合、中西会長の代弁者ともいえるくらい同じ問題意識で議論してくれる。これが執行サイドを鍛えることになるという。

・IR活動も、IR DAYを設けて、事業責任者が投資家、アナリストと直接対話している。しかし、これも見直す必要があると強調した。製品別セグメントでは、事業の価値創造が語れなくなっている。工場ベースの会計、製品ベースの会計も見直す必要がある。全く新しいセグメントを作って、それを共有して事業を推進する局面に来ているという。

・日立の社会イノベーションはそこまでの意味を含むように進展している。では、どうやっているのか。例えば、戦略として、“協創+つなぐ”を実践している。エクスペリエンスとして、顧客協創方法論を作り、①現場を見て、②一緒になって考えて、③新しいビジョンを作って、そこから実行戦略を具体化させる。POC(Proof of Concept)からIoTプラットフォーム作りにまで入っていく。そのベースがルマーダ(Lumada)というプラットフォームである。

・企業価値創造の仕組みであるBMの作り方を全く逆にした。BMを日立サイドのプロダクトイノベーションからスタートさせるのではなく、顧客の抱える課題、その集積である社会が抱える課題からスタートして、顧客と一緒になって、ソリューションを作り上げていく。その解決策がきっちりできれば、企業として儲かるのは当然である、と主張する。

・日立は儲かる会社に変身(トランスフォーメーション)できるか。まだ道半ばである。日立の社会イノベーション事業について、懐疑的な人も多い。リカバリーからBMの変革を通して、グローバルプレーヤーになれるか。中西会長の本音トークは、企業変革の内実を共感できて大いに参考になった。日立のカルチャーイノベーションに期待したい。

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