丸井グループの共創経営~ビジネスモデルのイノベーション

2017/06/26

・2016年の統合報告書で、どの企業が優れているか、という議論をした時、丸井グループに関していくつかの論点があった。ビジネスモデルを革新するという計画は画期的であるが、本当に実現できるのか。従来のビジネスの課題は克服できているのか。

・フィンテックの個性は分かるが何が新しいのか。経営者のリーダーシップと組織能力は十分か。資本コストをビルトインした経営は効果を上げるのか。こうした点で意見がわかれ、もう少し実績をみたいということになった。

・投資の視点でみると、これらの論点が財務データで確認できないと投資しにくい、というのでは投資のタイミングが遅すぎる。一方で、実行するという計画の宣言だけではなかなか信頼をおけない。多くの企業の中期計画は結果として実現しないことが多いからである。

・とすると、もっと中身をよく吟味していく必要がある。そこで、丸井の「共創経営レポート2016」を読んだ上で、昨年12月の共創経営レポート説明会、今年5月の決算説明会、IR DAY(事業中期経営計画説明会)に参加してみた。

・結論からいえば、「その先が知りたい」という期待を持った。投資家ならば、まずは株主となって丸井をフォローし、今後の展開を見極めながら持株のウエイトを高めるかどうかを判断することが妥当であろう。

・共創経営とは、すべてのステークホルダーとともに企業価値を創ることである。顧客・取引先・従業員・地域社会・株主投資家にとって、各々の価値の重なりあう部分(積集合)を、調和をもって拡大する。

・ここがユニークである。日本では、ステークホルダーにとってのそれぞれの価値の合計(和集合)とスタート台にすることが多い。これに対して、丸井は共有部分の価値にフォーカスしている。

・今回の中期5カ年計画で、百貨店型のビジネスモデルからショッピングセンター型(SC型)のビジネスモデルに、小売りの形態をガラッと変えると決めた。そのシンボルが博多マルイで、従来型の店舗に比べて全てを一新した。

・これが上手くいっている。顧客、取引先との共創に取り組み、「SC・定借型」のビジネスモデル(BM)で創り上げた初めての新店である。

・「お客様企画会議」を600回以上催し、延べ1.5万人の顧客が議論に参加した。従来の百貨店型は、1Fは化粧品、2Fにアパレルというのが一般的であったが、SC型では、1Fに飲食、2Fも飲食とした。

・「味の兵四郎」(だし)は、1Fの店舗ならぜひ出店したいと考えた。一方で、顧客の声を取り入れて、だしパックのサイズ、デザインを一新した。共創によって、店舗の配置やパッケージまで新しくした。売れ行きは大幅にアップしている。

・SC型の店作りでは、車イスやベビーカーに優しい広い通路を確保するなど、環境への取り組みも格段に進展させた。顧客と出店する取引先の声を徹底的に反映したのである。

・博多マルイ全体で見ると、アパレルの面積ウエイトは従来タイプの60%から30%に下がり、ライフスタイル型の商品サービスが40%から70%に上がった。

・エポスカード(丸井のクレジットカード)の発行枚数も倍増ペースとなった。店舗の収益性は、売上は増え人件費・償却が減ったので、大幅に改善した。

・カードについては、もともと丸井の本業であるが、キャッシング(小口短期の現金融資)が消費者金融を中心に過払い金で問題となった時期に同じように苦しみ、一時期会社は財務的に極めて厳しい状況に追い込まれた。

・それを乗り越えて、新しいクレジットの仕組みをエポスカードとしてスタートさせ、成功している。小売支援のクレジットカードであるが、自前のIT開発で、カードの即時発行、若い顧客層への信用調査、リボルビングの高い利用率で、ユニークさを発揮している。

・タブレット端末を利用し、申し込みから発行まで世界最速の20分、運転免許証の読み取りで名前・住所の入力が不要、口座登録は印鑑なし、システムによる自動審査など、画期的である。お店のレジで支払いの時、その場で2000円の割引が受けられるので、メリットが実感できる。

・これらによって、カードの会員数は600万人強と大手クレジット会社の4分の1の規模であるが、稼働カード1枚あたりの利益は2.5倍以上を確保している。

・サステナビリティ(持続性)のESGはどうか。青井社長は創業家ファミリ―の3代目であるが、その次の経営者作りには10年は要する、と岡島社外取締役はいう。そこで、次世代経営者育成プログラムを実際に開始している。

・組織風土について、阿部取締役(マルイファミリ―溝口の女性店長)は、いくつもの例をあげた。上司は「育休はいつ」と気軽に聞く。男性の育休取得率は2年前の14%が60%に上がっており、2020年には100%を目指す。

・共創経営にとって重要なテーマを考えていく「中期経営推進会議」では、手を挙げればグループの全社員が参加できるようにした。毎回1000名が応募し、選抜メンバーで積極的に対話している。

・中期計画の1年目である2017年3月期は、ROIC(投下資本利益率)が3.1%とWACC(加重平均資本コスト)の3.0%を上回った。フィンテック事業のROICは3.9%、小売事業のROICは2.5%であった。一方、負債のコストは0.2%、株主資本コストは7.2%なので、加重平均の資本コストは3.0%となる。ROEは6.7%であった。

・小売事業の「SC・定借化」は20%から62%へアップした。2018年3月期は84%へ高める予定で順調である。フィンテック事業では、リボ・分割取扱高の伸び率がショッピング取扱高の伸び率を上回った。分割利用加盟店の拡大が寄与している。新規カード会員数は目標の年80万人に今一歩届かず74万人であったが、今後も80万人ペースを目指していく。

・10年後に向けては、①EC化、②モノからコトへの消費、③シェアリングエコノミーの台頭、④少子高齢化、⑤インバウンド需要の拡大、⑥キャッシュレス化、⑦貯蓄から投資へ、⑧低金利時代の終息、を長期トレンドと定め、手を打っていく。

・8番目の低金利時代の終息は、説明会後の懇談で投資家から話題にされ、すぐに取り入れた。対話を経営に活かそうとする青井社長の姿勢は常に意欲的で一貫している。

・フィンテックでは、貯蓄から投資がなかなか実現しないわが国にあって、若者層に強いカード基盤を持つ丸井が、資産形成のサポートに動こうとしている。次にどのような金融サービスを打ち出してくるか、注目したいところである。

・財務ベースでは、営業利益で2017年3月期の313億円(ROIC3.1%)を2021年3月期に500億円以上(同4%以上)に持っていく計画である。その路線に沿って展開することは十分可能であろう。

・かつてのビジネスモデル(BMO)を、新しいビジネスモデル(BMN)に革新する、と決めて走っている。その戦略の実行性を1)経営力、2)成長力、3)持続性、4)業績のリスクマネジメントという4つの軸から評価すると、各項目を3段階で評価して、全体として10点というのが筆者の評点である。

・A(12~10点)、B(9~7点)、C(6~4点)というクラス分けでいえば、企業価値創造企業としてAクラスに属すると評価できる。青井社長が企業の質的転換(トランスフォーメーション)をさらにどのように進化させていくか、大いに期待したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

コラム&レポート Pick Up