統合報告をいかに書き下ろすか~読み手のアナリストからみて

2017/05/22

・企業の価値創造の仕組みをすばやく知りたい時、統合報告書が最も役に立つはずである。ホームページをみると、さまざまな情報が載っている。それを丹念にみていけば、一定の知見は得られる。しかし、価値創造の仕組みが分かったとは中々ならない。

・会社サイドとしては、それぞれの立場のステークホルダーに、自分の会社のことをよく知ってほしいとは思う。その一方で、企業としての「金儲けのしくみ」についてはあまり詳らかにしたくないという気持ちも強い。

・そこで、どうしても自社の商品やサービスの説明に重点をおき、会社の歴史を語り、中期ビジョンを概念的に解説し、中期計画の財務データを羅列することになりがちである。

・確かに一生懸命説明しようとする。しかし、投資家サイドに立つアナリストから見ると、平板な解説を長々と聞きたいわけではない。企業価値創造の仕組みを腹に入れて、分かったという状態になりたいのである。

・では、どうしてほしいか。まずは、統合報告を書き下ろしてほしい。どこかにあった別々の開示資料を寄せ集めて単純に合体しないでほしい。読んだ時に、書き下ろしたか、寄せ集めたかはすぐにわかってしまう。寄せ集めは知識の羅列となるのでまとまりがない。

・大上段にかまえて、価値創造の仕組みを表現してほしい。価値創造の仕組みがビジネスモデル(BM)である。BMとはまさに長期の金儲けの仕組みである。企業価値には経済的価値と社会的価値の双方を含むので、すべてが将来キャッシュフローと結びつくわけではない。

・日本の多くの統合報告書を読むと、このBMの書き下ろしが弱い。ここをしっかり固めて展開しないと、統合報告の訴求力が焦点ボケになってしまう。

・企業は事業領域の広さによっていくつものBMを有しているが、ここでは単純化して1つのBMを取り上げる。現在のBMをBM1とすると、そのBM1が輝いている企業もあれば、色あせている企業もある。BMが常に盤石という企業はほとんどない。

・BM1を次のBM2へ変革していく必要がある。つまり、次に目指すBMについて構想を練り、あるべき価値創造の仕組みを設計する。当然、あるべき論だけの、ないものねだりではしかたがない。

・現在のBM1には、さまざまなキャピタル(資本)が使われている。有形、無形のキャピタル(アセット:資産)について、そのコンテンツを見定める必要がある。キャピタルを財務的なパフォーマンスと直接結びつけようとしても、ほとんどの場合無理がある。

・例えば、コーポレートガバナンス(CG)をよくしたら、企業の稼ぐ力(1つの指標としてのROE)が上がるのか。これを一次関数的に結び付けようとしても、そんなことはできない。

・BM1を形作る重要なキャピタルについて、しっかりと意味付けることが重要である。次に、将来作り上げたいBM2を明確にして、それを達成するための戦略を語ってほしい。

・BM2にも当然コアとなるキャピタルが必要であり、それを作り込んでいく必要がある。BM2を実現するための方策が戦略であり、そこには抽象論ではない、独自の具体策が求められる。そのストーリーを知りたい。

・重要なキャピタルが、BM2へどう構築されていくか。それがどのように結びついているか。そのマテリアリティ(重要性)とコネクティビティ(つながり)を、BM2の実態に即して語るべきである。

・さもないと、BM2の漠然とした姿に対して、いくつかの方向から解説しているだけになってしまう。それでは戦略性が欠けて、単なる目標の細分化に陥ってしまう。こうしたケースはよくみられる。

・BM2を語る時には、外部の経営環境についてどのように認識しているかに関して、意見を述べる必要がある。自社が攻める新しい事業領域の成長機会とリスクについて論じることが求められる。その中で、BM2がいかに強いものとなるかを強調してほしい。

・新たないくつものキャピタル(マルチキャピタル)を使うので、そのリソースの調達、配分についても知りたい。人材、知財、組織作りは必須である。BM2を動かすイネーブラー(実現のカギ)、人々を動かすインセンティブ、制約となるバリアについて、どのように取り組んでいくのか。

・BM1からBM2へ変革する時のコア戦略については、そのアウトカム(結果)を明示してほしい。1)新たなキャピタルとなる無形資産のアウトカムを定量的に示す必要がある。2)もし定量的に表示できない場合は、定性的な判断を入れて何らかの定量化(評点)を行うことが望ましい。

・それらのアウトカムを通して、BM2の動きが分かり、最終的には財務パフォーマンスとして表れてくる。これが企業価値創造の仕組みに対する筆者の基本的な考え方である。

・統合報告は、会社サイドが書き下ろすベーシックレポート(深い分析レポート)である。これが投資価値判断の重要な材料として対話(エンゲージメント)の基礎を形成することになる。

・一方、アナリストは、投資家の目線で、企業の価値創造プロセスを解明していく。1)企業の特色、2)企業の強み、3)将来ビジョンと計画、4)実現に向けた戦略の実効性、5)新たなBM作りを支える経営力、イノベーション、リスクマネジメント、ESGについて、マテリアリティとコネクティビティを踏まえて、大胆かつ論理的に分析し予測する。

・企業価値の評価に当たっては、1)会社の善し悪し(企業レーティング)と2)株価の割高割安(バリュエーション)は明確に分けて判断する。こうすることによって、長期的な企業価値評価が身近なものとなり、対話も円滑に進もう。

・ぜひ、読み手としてのアナリストや投資家が対話の質を上げられるように、すべての上場企業において、わが社オリジナルな統合報告の書き下ろしに取り組んでほしい。それを継続することによって、価値創造の仕組みそのものが洗練され、魅力的なものとなってこよう。

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