アナリスト活動の変革に向けて~早耳情報禁止の中で

2017/01/10

・セルサイドアナリストは、‘選択的情報の提供’をしてはならない。情報は公平に平等に発信し、投資家に届くようにすべきであるという主旨である。特定の誰かに一足先に話してはならない。そのためには、アナリストレポートに情報をきちんと書き込んで、一斉に発信することが求められる。

・発信したレポートの内容と矛盾するストーリーを、特定の誰かに語ってはならない。レポートには建前を書いたが、本音は別のところにあり、そちらの方が実現する可能性が高いというような内容を提供してはならないという意味である。リスクシナリオがあるなら、それもレポートに記載しておく必要がある。

・では、まだ固まっていない投資アイデアについて、投資家や企業家と会話してはならないのか。そんなことはない。談論風発はいくらやってもよい。但し、企業に未公開の情報を求めてはならない。そこには一定の節度が必要であり、自らの考えを歪めたり、思い込みをしたり、勝手な曲解をしてはならない。要は、嘘をつくな、秘密を聞くな、論理明晰という姿勢を貫くべし、という倫理が問われている。

・インサイダー情報にあたる重要事実と、法人関係情報では意味合いが異なる。重要事実は株価に‘著しく影響を及ぼすもの’であり、法人関係情報は‘株価に影響するもの’という定義なので、重要事実よりも幅広い。

・では、株価に影響する情報は、法人関係情報になりうるので、それを企業から取材で取得してはならないとすると、何をどう話すのか。何が株価に影響するかは分からないのだから、何も話せない。何も聞けないとなってしまうのか。

・そう萎縮する必要はない。企業サイドもアナリストサイドも株価に直接的に影響する情報とは何かが概ね分かっている。その情報の探り合いをするわけではない。もっとファンダメンタルな議論はいくらでもできる。最も大事なことは、誰から何を聴いたかではなく、自分が様々な情報を活用して、企業の価値創造プロセスをどのように理解し、将来を予測していくかが中心命題である。

・それを定性的に組み立て、定量的に予測して、書きおろしていけば、それは自分のオリジナルな意見である。マイオピニオンを、論理一貫性を持って語るという姿勢と表現力が身に付いてくれば、アナリストはかなり自由に活動できよう。

・アナリストにとって、アナリストレポートによる情報の発信が、第一義的な開示方法とされているが、動画や音声による発信も公平、平等さが確保されていれば問題はない。動画をHPに載せ、アクセスできるようにすれば公平さは保てる。しかし、現状では動画音声による情報発信は、アナリストにとってまだ一般的ではない。

・投資家は多様である。未公開の業績に関する情報について、企業に聞いてはならないし、それを発信してはならない。短期の情報について、今までよりは制約を受ける。一方で、短期、中期、長期で投資判断が変わることも十分ありうる。予測しているKPIが想定外の方向に振れれば、判断が即座に変わってくることもある。その場合に備えて、いくつかのシナリオを用意することが有効となろう。

・KPIの発生確率に応じて、各々の予測をシュミレーションしておくことも効果的であろう。とかく予測は当たらない。予想外のことが時にサプライズとなる。サプライズが株価を大きく動かすということが頻繁に起きうるので、将来を見る構想力がますます重要になる。

・四半期決算は、年に4回ある。決算期末から決算内容の公表まで1ヶ月とすると、年に4カ月は決算の実績について取材はできない。決算が締まる2週間前から取材できないとすると、年に2カ月は取材できない。ということは、1年のうち取材ができるのは6カ月である。

・この間に、ファクトの実績についてよく把握し、将来の予測に役立ちそうな企業価値創造のプロセスや戦略について議論をして、理解を深めていく。取材が制約される期間が長くなるということは、今までよりも‘深い分析を行ったベーシックレポート’を書く時間的余裕が増えるはずである。

・そのベーシックレポートがないと、投資家と実のあるミーティング、対話ができない。外交時間の効率化も問われる。レポートに書いてあることをベースに議論するのだから、深い分析と的確な表現は必須となる。そこで、アナリストはベーシックレポートをリニューするために、会社と議論を重ねていく。会社もそのための情報開示に躊躇する必要はない。

・こうした新しいサイクルをうまく回すことができれば、アナリスト活動はあるべき方向へ変革され、「なくてはならない存在」として社会的役割を大きく高めることができよう。

株式会社日本ベル投資研究所
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