どこまで続く攻めの経営~日本電産

2016/12/28

・11月の世界経営者会議で日本電産の永守会長(兼社長)の話を聴いた。28歳で今の会社を創業し、現在72歳、永守節は相変わらず健在である。攻めの経営をここからどう展開するか。勢いをさらに加速させようとしている。

・まず、社員の働き方では、2020年までに残業をゼロにすると宣言。これまでは人より一生懸命働く、長く働くというのが会社の特色であった。頭脳で違いを出せないなら、時間の工夫で出せという考えであった。しかし、売上高が1兆円を超えてきて、一気に切り換えることにした。

・欧米の会社を買収して改めてわかったという。残業が少ない。ドイツでは夏休みを1ヶ月近く取る。そこで、「日本で一番働き易い会社を作る」と決めた。やる時は劇的にやるのが永守流なので、残業を減らす工夫と、その時間の活用を徹底することにした。残業を減らすための投資はどんどんやる。17時から20時までは能力を高めるためにビジネススクールを用意する。残業代の半分は報酬として返す。アイデアとトップダウンでバシバシ推進すると強調した。

・生産性を上げるには、働き方を変えると同時に、高付加価値化を目指す必要がある。新しい市場を開拓するための開発力、生産力、マーケティング力を高めることが求められる。M&Aも徹底して進めてきた。これまでに50件のM&Aを行ったが、失敗は1件もないと豪語する。

・M&Aを成功に導く秘訣は何か。4つあるという。第1に、安く買う。高い買い物は後で減損に結びつくので、絶対にやらない。安くなるまで5年でも10年でも待つ。第2は、相性を見る。事業の相性、企業の相性をよく見る。第3は、シナジーで、相乗効果がどのように出せるかを判断する。そして、第4は、PMI(買収後の統合)に関する経営を誰がやるのか。外国企業をM&Aした場合、日本人で経営できる人はまずいないので、先方にまかせる必要がある。よって、相手の経営陣をよくみる必要があり、これを見抜く力が問われる。

・言われることは尤もであるが、それを実践し、成果を出しているところが尋常でない。利益に対する執念も徹底している。赤字は罪悪であると公言し、儲けないから会社は赤字になると逆説的に語る。

・売上高営業利率15%を目標とし、10%以下は赤字であると決めている。つまり、社内の基準点を10%においており、そこから上が黒字、それ以下は赤字という定義である。このハードルは高いのではないか。永守会長は、そんなことはない、当り前の経営である、と飄々としている。

・経営の要諦は3つに尽きると明言する。第1は、井戸掘り経営である。井戸は毎日水を汲んでもまた水が湧いてくる。もっと言えば、水を汲むから次の水が湧いてくる。企業の改革・改善もつきることがない。アイデアを出し、そのアイテムを実行して成果を出していると、次のアイデアが湧いてくる。これを全社員で続けることである。

・第2は、家計簿経営である。家庭の主婦でやりくり上手は、収入に見合って支出を決めている。必要な貯蓄を先に決め、収入が減ったら支出も減らす努力をする。我慢してやりくりするのである。企業も同じで、売上高に見合って支出をコントロールしていけば、絶対赤字にならない。そのフレキシビリティを絶えず身に付けておくことが大事である。

・第3が、千切り経営である。経営の規模が大きくなっても、細かく切ることでやりようが出てくる。たとえば、1年で人員を1000人減らせという命題は大変なことである。ところが、365日で割れば1日3人である。1日に3人減らす工夫をせよ、というと、さほど難しくないように思えるし、アイデアも出てくる。

・こういう経営を実践してきた。では、次はどのくらいの規模を目指すのか。永守流経営は、ほら吹き経営ともいわれるが、ホラではなかった。売上高10億円から100億円へ、100億円から1000億円、今の1兆円規模になるのに各々13年ほどかかった。次は2030年に10兆円企業になると目標を掲げている。

・売上高を10倍にするというのは、その時点でみれば、具体的な戦略を描けていない。よって、トップの思いであっても、世の中ではホラのように聞こえるのだろうと、永守会長はいう。本人はその意思を固め、日々邁進という姿勢を貫いてきた。

・世界のビジネスで堂々と戦うには、10兆円規模が欲しいと強調する。1兆円企業になると、1兆円企業が買収できる。よって、内部成長(自社)と外部成長(買収)を、50対50の割合で活用し、企業を成長させていく方針である。

・これまでは半導体が産業のコメといわれたが、2025年以降はモーターがあらゆる分野のコメになるとみている。70億人の人口が2045年には90億人を超えている。そのころには人口の3倍のロボットが働いている時代になる。270億台のロボットに超小型精密モーターが使われると、マーケットは膨大である。

・永守会長は、2030年までCEOをやると宣言する。現在72歳であるが、自らの体力は48歳レベルと自負する。今の時代、体力は昔の人よりは遥かに上がっている。つまり、物理的年齢の7掛けが当たり前ではないかという。14年後の86歳でも60歳のイメージである。

・永守会長の後継者はどうするのか。投資家の問いかけに対して、1)後継者は育っている、でも、2)創業者がまだまだできる、という考えであろう。日本を代表する世界的な企業に一代で伸し上がるという稀有の挑戦に期待したい。

・割引現在年齢は、気力×知力×体力で決まる。永守会長はCEOを2030年まで続け、10兆円企業を目指す。72歳の7掛けで、現役バリバリ。我々もせめて8掛けといきたい。8掛けなら、確実に元気が出でこよう。

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