イノベーションを対話する~起爆力は何か

2016/10/07

・企業を評価する場合、イノベーションは1つの重要な軸である。事業の将来の成長力は、イノベーションの実行に依存する。イノベーションとは‘革新的な仕組み作り’で、狭い意味での技術革新にはとどまらない。企業価値を新たに創造するための画期的な仕組み作りのことを意味する。

・DTC(デロイトトーマツコンサルティング)は、METI(経済産業省)のプロジェクトとして、イノベーションマネジメントの実態調査を行った。昨年末に上場企業にアンケートを実施して、その分析結果を公表している。

・イノベーションを組織に根付かせる経営力は、どのように高めればよいか。そのためには、資本市場との対話に、イノベーションの軸を明示的に位置付ける必要があり、今回の分析フレームワークが役立つのではないか。このような問題意識で議論する機会があった。その中での論点について取り上げてみたい。

・日本企業のイノベーションへの取り組みについて、DTCでは7つの評価軸を挙げて、それぞれを点数化した。企業からのアンケート結果に基づいている。それらは、①トップマネジメントのリーダーシップ、②イノベーション戦略、③イノベーションプロセス、④パイプライン・ゲート管理、⑤外部コラボレーション、⑥組織・制度(イネーブリングファクタ―)、⑦イノベーション文化醸成の7つである。

・具体的には、1)イノベーションの創出に向けて情熱や好奇心をもっているか、2)そのための戦略を立てて、KGI(Key Goal Indicator)を設定しているか、3)イノベーションを創出するプロセスを明確に定めているか、4)イノベーションの進行に当たってゲートを用意し、意思決定基準やKPIを管理しているか、5)外部とのオープンイノベーションを推進しているか、6)イノベーションを培う人事制度、知財管理は確立されているか、7)挑戦、失敗、多様性などを受け入れるカルチャーが根付いているか、という点にフォーカスする。

・その結果をみて、DTCは7つの項目で平均を上回る上位企業の方が、売上成長率が高く、株価パフォーマンスもよい傾向があると分析している。また、項目ごとの点数によって、①‘場当たり型’が36.5%と最も多く、②次が‘掛け声先行型’35.1%であった。一方で、③7項目の水準がどれも高いイノベーションを推進するメカニズムが整っている‘メカニズム型’は14.4%であった。

・日本企業はイノベーションを起こす力が弱いのではないか、という問題意識に対して、アンケートに答えた200社余りのデータをみても、各社の判断として、その傾向が表われている。掛け声先行が多いということは、イノベーションに対するリーダーシップや戦略は立てていても、それを実行するプロセスや組織において十分でないと認識している。場当たり的というのは、会社全体として、イノベーションを推進するという体制がまだ全く不十分であるということを意味する。

・日本の企業に、イノベーションの連鎖を実現している企業はある。それが創業者のリーダーシップや一部のユニークなイノベーターに依存するだけでなく、イノベーションを遂行する組織能力を身につけている企業もある。イノベーションというのは、画期的、革新的な仕組み作りであるから、多くの企業に実現できるはずもない。一部の特殊な企業のみが成功企業としてあげられる、という見方は有力である。

・一方で、日本の企業は、現在の本業に経営資源を投入しすぎており、本業の改善ばかりに取り組んでいるのではないか、という見方も有力である。イノベーションを実行したいという意向はあっても、掛け声に留まって、全体がうまく回っていないことも多い。今の本業が収益源であるから、そこに陰りや綻びがみえると、本業強化の方を優先すべしとなってしまう。

・イノベーションというのは、挑戦してもうまくいくかどうかが分からない。経営資源を過度に投資しすぎて、本業が傾き、新規分野の失敗も負担となっては、会社がもたない。リーダーは責任をとりきれない。そこで、危ないことはとりあえずやめておこう、ということになりかねない。

・しかし、よくみると、どの会社にもイノベーターはいる。むきになって、他と違うことを目指す人はいる。外部のベンチャーにも人材はいる。とりわけ、海外にはそういうイノベーターが多い。そのような異能な人達をどうマネージしていくのか。新しいビジネスモデルにまで、どう仕上げていくのかが問われる。そのための組織能力作りという点で、DTCの7つの軸による分析は意義があろう。

・アンケートは2800社に出して、返ってきたのが200社あまりである。答えていない企業は、7つの評価軸で見た時、上位にはこない会社かもしれない。まだ、イノベーションマネジメントが十分でない可能性はある。

・資本市場には、プライマリーとセカンダリーのビジネスがある。インベストバンキングなど、プライマリーは企業の中に入ってビジネスやファイナンスの提案実行を行うグループである。彼らは、企業の構造改革やM&Aを提案し、サポートする。それが効果を発揮することも多い。

・資産運用会社や金融商品の販売会社などのセカンダリーは、上場企業を投資家の視点で評価し、行動するグループである。昨今は、企業の稼ぐ力を高めるために、ガバナンス改革が注目され、CGC(コーポレートガバナンスコード)やSSC(スチュワードシップコード)が制定され、実行に移されている。原則が示され、それに対応することで、ガバナンスが向上する企業も出始めている。

・ガバナンスと同じように、企業の持続的成長を支えるには、イノベーションは必須である。今のビジネスモデルを、新しい企業価値創造に向けて、次のビジネスモデルへトランスフォームしていく必要がある。

・このイノベーション力を底上げするために、企業として何をすべきか。そのプロセスについて、投資家との対話が具体的になされるのであれば、その意義は大きい。目先の業績ではなく、中長期的な成長に関わるイノベーションの推進とその対話の中身には、今後とも大いに注目したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ