不正は見抜けるか

2012/01/25

投資家として企業へ投資する時、その会社をどのように信用するのであろうか。最近では、オリンパスの投資損失隠し(所謂飛ばし)や大王製紙の元会長(オーナー一族)の資金流用が注目された。投資家として、このようなことを見抜けたであろうか。通常は極めて難しい。では、こんな不正を行う会社が多いのかといえば、それは例外であるともいえる。

会社を支える仕組みはどうだろうか。会社では、社長が最も権力を握っている。しかし、一人で総てを決めるのではない。取締役会での承認を必要とする。取締役会は、業務執行の最高責任者である社長(CEO)を取り締まるのが最も重要な仕事である。しかし、取締役も日常それぞれの分担をもって会社の仕事をしているので、社長を取り締まるといっても簡単ではない。

そこで、社外の目を入れることによって、取締役会の機能を強化し、牽制力を高めようとしている。社外取締役や社外監査役の役割が重要になる。しかし、監査役は監査が仕事であって、業務執行の総責任者である社長を解任することはできない。取締役はそれができるので、社外取締役を入れることによって、その機能を強めようとしている。

では、社外から来た人に会社の中身が本当にわかるのか。一定の牽制が働き、経営について気のきいたアドバイスができても、トップが関わるような不正を見抜くにはよほど社内を調べる必要がある。そのようなことを本気でやろうとすると、膨大な労力を要し、しかも社内の協力がなければ不可能である。

監査法人の公認会計士は、会社の会計について法に基づいた監査を行っているわけだから、不正について見抜けるはずであると思う。しかし、企業のトップが本気になって隠そうとすると、通常の監査手続きには入ってこないような手口を使ってくるかもしれない。

会社のトップマネジメントは一人で不正を行うのではく、必ず腹心の部下を使っている。その周辺に関わっている人はいるはずであるから、その人達の良心による通報も有効な手立てである。とりあえずうまくやっておこうというちょっとした不正が、雪だるま式にどんどん大きくなって取り返しがつかなくなる。関わった人も、しまった、と思っても同罪なので一緒になって隠そうとする。目先の利益に捉われて、正義の気持ちを押し殺してしまうのかもしれない。

2001年に破綻したエンロン事件を振り返ると、いくつかの教訓が得られる。事件の顛末は「ENRON」というドキュメンタリーDVDで知ることができる。第1は、株価が上がれば何をやってもよいという、株価至上主義に経営者が囚われていたこと。第2は、時価会計を利用したHFV(ハイポシティカル・フューチャー・バリュー)を恣意的に作り、SPE(特別目的会社)を利用してオフバランスしたこと、第3は、そもそもビジネスモデルが単なるエネルギートレーディングの利ザヤ稼ぎであって、企業価値の創造に役立つような仕組みになっていなかったことである。

われわれ投資家としては、トップの不正を容易に見抜くことはできないが、不正は必ずばれるものである。ばれた時には、取り返しのつかない制裁を社会的に受けることになる、と経営者に戒めていくことである。

そして、会社のビジネスモデル、単純にいえば金儲けの仕組み、もう少し正確に言うと、「企業価値創造の仕組み」が本当に長期的に続くものか、そのサステナビリティ(持続性)を問うていくべきである。企業のビジネスモデルを理解するには努力を要するが、さほど難しい話ではない。理解して納得できる会社、「なるほどわかった、共感できる」会社に投資をしていけば、不正に騙されるリスクを減らして、その会社を応援することができよう。

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