投資におけるエンゲージメントとは~経営者との対話

2016/02/15

・エンゲージメントという言葉は、一般的に何らかの“関係構築”を意味する。共感や愛着をもってよい関係を作り上げるための活動である。投資の世界では、「目的を持った対話」を行うことであり、中長期的な企業価値の向上に資するような投資家と経営者による意見交換によって、相互理解を図ることである。

・1月にスチュワードシップ研究会のセミナーで、エンゲージメント型ファンドの取り組みについて話を聴いた。エンゲージメントにおける対話とは何かについて、いくつかの示唆があった。“投資家が会社を見る目を養う”上で参考になる視点を取り上げてみる。

・いちごアセットマネジメント(AM)のスコットキャロン社長は、「モノを‘聞く’株主」としての対話を強調した。一方的にモノを言うのではなく、つまりアクティビストとして特定の要求をするのではなく、まずは会社をよく理解するように努力を続けるという。

・投資とはまさに将来の選択であり、いちごAMは社会貢献投資を目指す。ロングオンリーのバリュー投資で、現在運用資産は5800億円、10銘柄で全体の70~90%を占める。8割は3~5年のロックアップが付いており、短期の解約はできない。投資期間はスタートしたばかりの投資先もあるので、会社によって1年~10年と幅があるが、平均5年で次第に長期化している。

・企業には常に謙虚さと敬意を持って接し、持続的成長をサポートする。企業のコミットメントが長期投資家のコミットメントと同じようになるように双方向で話し合い、取引先や顧客の紹介、M&A案件の提案など、投資先企業の社外役員にも就任して、監督アドバイスを行っていく。

・あすかコーポレートアドバイザリー(CA)の田中善博COOは、外部支援による企業価値のバリューアップに対する‘経営者の気付き’を強調した。あすかCAはあすかAMにアドバイスを行う。現在15~20社の中小型企業に投資をしており、友好的アクティビズムや、ポストIPOベンチャーへのアプローチとしての外部支援によって、企業のバリューアップ戦略をサポートし、価値向上を実践するソリューションの加速化を図る。

・企業をサポートするに当たっては、プライベートエクイティやベンチャーキャピタルの経験者、経営コンサルティングの経験者、ヘッジファンドの経験者など、多様なプロフェッショナルを集めて、1)事業価値の向上と2)価値を価格(株価)のギャップを解消するような施策をサポートしていく。

・対話に当たって、その会社に対する提言レポートを書いて議論の材料にする。①IR、資本政策の提言、②経営戦略・戦術の提言、③それらの実行支援に関して対話を行い、必要なら外部の専門機関を紹介する。

・いちごやあすかのようなエンゲージメントについて、企業はどのように反応するのだろうか。何らかのプロセスを経て互いの理解が進めば、その企業の株主として何ら不都合はないので意見交換も進むことになろう。

・しかし、初期段階においては、企業にとって煙たい存在となろう。企業価値と株価にギャップがあり、そこに投資価値がありそうだということで、企業に対話を求めてくる。企業に聞く耳があればよいが、1)物を言う株主はうるさい、2)自分達はすでにしっかりやっている、3)やれそうもないことを要求されても無理である、という防御的姿勢になってしまうかもしれない。

・一般に企業は、一生懸命仕事をしていると自分達のことを考える。特に経営陣において、自ら手を抜いていると考える人はいない。必死で経営しても思うようでなく苦労しているのに、外から中のことも分からずにいろいろ言われても説明すらしたくない、というのが本音であろう。

・投資家サイドはどうか。伸びる会社、きちんと立て直す会社に投資したいのであって、それがはっきりしない会社には投資したくないと思う。一方で、グロース企業、バリューアップ企業と、みんなが分かってしまってからでは、一定の投資リターンはとれるとしても、大きなリターンは見込みにくいかもしれない。

・つまり、上場した後、いい素質があるにもかかわらず、呻吟している会社を本格的にサポートして、その会社が様変わりしてよい会社に変身するのであれば、その時の企業価値向上の変化率は高く、結果として株式市場での評価も大きく高まることになろう。

・エンゲージメントファンドとは、会社を表面的にみるのではなく、その会社の中身をよく分析して、経営の方向を十分理解した上で、外部の株主としてできることを最大限サポートして、会社をよくするように一緒に働いていく。つまり、経営者の目線と株主の目線を揃えるようにして、共通の価値を追求していく。

・ここにインサイダー情報の問題はないのか。内部情報と外部情報に一線を画しているので、不正が働かないように、ファイヤーウォールを守ることは必須である。この一線を超えてしまうと、即刻処罰されることになろう。

・エンゲージメントとしての対話を通じて、会社をより深く理解していく。より深く理解すると、重要なことが分かってくる。1)今は苦しんでいるが、どうすればよくなるかの方策があり、それがみえてくる。2)外部からはいい素質があるようにみえたが、次の打つ手が限られており、今の経営陣では立て直すことがかなり難しい、という2つのパターンである。

・こうみると、投資家としては程度の差があっても、エンゲージメントファンドの目指す投資哲学に共感できるはずである。アナリストもここにフォーカスして企業分析と予測を行っていくことが求められる。アクティブ投資の投資信託も企業を深く見極める力量が問われ、対話を運用に活かしていくことが本来の姿であろう。

・上場企業においても、こうした本物のエンゲージメントを求められるならば、躊躇することなく、対話を受け入れて時間を費やすことが有意義なものとなろう。企業価値創造に資するエンゲージメントファンドが、もう一段大きくなることは間違いない。その投資対象が広がって行くことに大いに注目したい。

株式会社日本ベル投資研究所
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