対話の達人づくり

2015/08/31

・企業価値向上に向けて、「経営者と投資家は対話せよ」といわれる。はたして対話をして双方のパフォーマンスは上がるのか。中長期的投資が実践されるのであれば、その蓋然性は高いが、さまざまな要素がからんでくるので、現実は複雑である。

・まず対話の中身(コンテンツ)について考えてみる。投資家は価値創造の仕組みを知りたい。その仕組みがビジネスモデルである。そこで、現状のビジネスモデルをどのように進化させていくのか。ここを「見える化」してほしいと考える。投資家はビジネスモデルの進化、すなわち価値創造のプロセスの展開を共有したいのである。

・この共有ができていない。なぜか。1つには、企業のビジネスモデルが不十分で分かりにくいという面がある。あるいは、ビジネスモデルの本当の姿をみせるわけにはいかない、という可能性もある。価値創造の仕組みを詳らかにすることで、企業自らが不利になるかもしれない。価値創造に支障がでるのであれば、投資家にとってもマイナスとなるから、その秘密は開示しなくてよい。しかし、自社の強みや良さは強調できるはずである。そして、新しいビジネスモデルの構想についてもできる限り言及してほしい。

・ROEについて誤解があるかもしれない。投資家はROE至上主義ではない。つまり、まず何よりもROEを極大化しろと主張しているわけではない。しかし、一定水準以下のROEは許容できないので、8%はクリアしてほしいと考えている。もっと大事なことがある。ROEは結果としての1つの重要な指標にすぎないので、これを達成するための現場のKPIをきちんと定め、それを実行するマネジメントが各々の事業において機能しているかどうかが問われる。現場のKPIが、会社全体の価値創造にしっかり結びついているコネクティビティが鍵である。ROAやROICでもよい。投資家が納得できるところまで、一貫性を持たせてほしい。

・KPIが数量で測れないこともある。イノベーションのビジネス化に10年以上かかることもありうる。その時には「ビジョンと思い」を語ってほしい。細かく逐一報告する必要はない。考え方を明確にして説明してくれれば十分である。投資家によっては納得しないかもしれないが、そこはしかたがない。その場合でも、経営全体としては、事業ポートフォリオとしてパフォーマンスを追求し、一定の成果を上げるようなマネジメントを展開してほしい。

・では、中長期の投資を推進し、対話を通して成果を上げるにはどのような仕組みの改善が必要なのだろうか。もし現状が不十分であるという認識を共有できるのであれば、各々の立場でやるべきことがある。それにはかなりパワーを要するが、私の考えをいくつかを述べてみたい。

・好循環を作るという意味で、年金基金のスポンサー(アセットオーナー)からスタートする。彼らはまさに長期投資家である。日本株のアクティブ運用について、中長期の企業価値向上ファンドを改めて設定する。規模は大きいほどよい。そこでは、機関投資家に中長期の企業価値向上を図るようなポートフォリオ運用を求める。その時に、企業のファンダメンタル情報を重視し、それを活かすような独自の仕組みを重視して、マネージャーを選定する。

・運用会社は、社内にファンダメンタル重視の運用調査を行う仕組みをこれまで以上に充実させる。バイサイドアナリストには、社内における投資対象企業について中長期レポートの作成とその活用を義務付ける。バイサイドアナリストは今まで以上に、企業の関係者と中長期の視点で対話するようになる。年金スポンサーは、運用会社のパフォーマンスだけでなく、この中長期レポートの作成とその中身についても重要項目として評価してほしい。

・次に運用会社は、セルサイドの証券会社に対して、ファンダメンタルを重視した中長期レポートの作成を要請し、ブローカー評価において、この評点のウェイトを明確に高める。ベストエグゼキューションとは別に評価する仕組みも工夫する。そうすると、セルサイドはディープレポートの質の向上と差別化を求めて、企業とより深く議論し、それを表現するようになる。

・上場企業のマネジメントやIR担当者は、中長期レポートを書くセルサイド、バイサイドのアナリストと選択的に議論するように務める。フェアディスクロージャーは基本であるが、対話のプライオリティに差があっても何ら問題はない。つまり、中長期的分析を優遇するのである。

・但し、ここで注意すべきことがある。短期の財務情報については会社が圧倒的情報優位である。しかし、中長期になればなるほど、会社としての願望はあるとしても、ビジョンや目標達成の確度は低下する。その時、会社の中長期展望に対してポジティブなアナリストを重宝して、会社の中長期にネガティブなアナリストを冷遇しないことである。

・あくまでも分析の内容、論旨を重視すべきである。アナリストの意見は多様であってよい。ファンドマネージャーも、その方が参考になる。このファンダメンタルレポートについて、セクターごとに企業CFOによるアナリストの評価やディープレポートの評価があってもよい。

・もう1つ企業が手掛けるべきことは、総合レポート(Integrated Reporting)の充実である。統合レポートだけで投資判断できるくらいの内容にレベルアップしてほしい。できる企業は本格的な総合レポートを、そこまで準備できない企業は株主通信の統合報告化から始めてほしい。そして、決算説明会とは別に、統合レポートを軸にした会社説明会を行うことを提案したい。

・個人投資家説明会もこの方向に含まれよう。株主総会では、議案の前提に統合レポートが使えよう。投資家や株主にとって、本当に役に立つ統合レポート作りに力をいれることが、企業価値向上と軌を一つにすることなろう。

・これらの内容について、すでに実行しており、何を今さらという意見もあろう。しかし、経営者と投資家の対話をレベルアップしていくには、対話のビジネスモデルを再構築する必要がある。SSC(スチュワードシップ・コード)、CGC(コーポレートガバナンス・コード)を踏まえて、業界横櫛のプラットフォームの改革にぜひとも取り組んでいただきたい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

コラム&レポート Pick Up