ロボットイノベーション

2015/03/16

・2020年に、ロボットのオリンピックが催されるらしい。その企画が進んでいる。ロボット新戦略の話を聴く機会があった。印象的であったポイントをいくつかまとめてみた。筆者は40年前からロボットに多大な関心があった。ヒト型ロボット(ヒューマノイド)はどこまで人間に近づけるのか。ヒトを機能的にみると、意思決定システムであり、情報処理システムであり、制御システムである。心と感情はさらに複雑である。コンピューターとネットワークが情報処理システムとして発展し、制御システムをアクチュエータ(駆動装置)に応用した機器が初期のロボットであった。

・省力機器としてのロボットは、この30年でさまざまな工場において使われるようになってきた。単純反復的な作業を高精度で行う。ヒトを使わずに作業を代替し、生産性の向上に寄与してきた。その後、アシモやアイボなどヒューマノイドの原型のようなものが登場したが、おもちゃの域を出ず、実用的なところまではまだ来ていない。そして、新しい時代を迎えようとしている、工場だけではなく、ロボットの使われる場面はもっと多様化してきた。

・廃炉作業ロボットやテロ対策ロボット、介護ロボットなど応用範囲が広がっている。必ずしもヒトの形をしていなくてもよい。情報を検知し、その情報を使って判断し、自ら何らかの活動を行うものがロボットである。それを担う技術がレベルアップし、R&Dが進む中で、具体的な製品がビジネスとして登場している。

・METIの今里和之氏(製造産業局)によると、2014年5月に安倍首相がOECDの会議で、ロボットで新しい産業革命を起こすと宣言した。非軍事の分野で、日本はロボットの活用を目指す。人手不足の中で、サービス、介護、危険作業、農業、中小企業など、ニーズは広がっている。世界ではまさに、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)が注目されている。これにアクチュエータをどう結び付けていくか。開発競争は熾烈であり、日本も負けられない。

・政府は日本再興戦略の中で掲げたロボットによる新たな産業革命の実現に向けて、この1月に「ロボット新戦略」をまとめた。成長戦略の1つの柱である。IoT時代のロボットは、人の代替、労働の代替、生活の代替など、実に幅広い可能性がある。国の政策としては5年で1000億円を投資して、現在6000億円のロボット産業を2.4兆円の産業へ拡大しようと目論んでいる。これには規制改革も必要であり、イノベーションを盛り上げるためにもロボットオリンピックを開催して、世界最先端のロボットを2020年に日本に集結させようとしている。

・福島の原発災害では、日本のロボットがさほど役に立たなかった。センサーや制御技術、駆動装置の技術はあっても、それが実用に耐えるようになっていなかった。つまり、技術があってR&Dも行われているが、実際に使われるような技術インフラや応用製品になっていなければ、いざという時、現場で力を発揮することはできない。その意味において、使いこなすだけの実用化の場面を、政策としてサポートしていく必要がある。今回の国の政策はここを応援しようとしている。

・東大の浅間一教授が興味深い例を話した。日本では介護ロボットがなぜ浸透しないのか。介護の現場で腰痛になる人は多い。人を不自然な姿勢で抱きかかえることが、腰への負担となる。腰を痛め、介護の仕事を辞めていく人も多い。オーストラリアでは、‘ノーリフティングポリシー’を法的に制度化した。ノーリフティングだから、抱えあげてはいけないという法律を作った。介護作業をする人を守るためである。そうしたら、抱えるための支援機器の導入が促進された。オーストラリアから日本に視察に来た人々が、ロボット先進国の日本で、介護ロボットがほとんど使われていないことに驚いたという。

・廃炉ロボットなど災害対応ロボットでは、遠隔操作ロボットが十分でなかった。研究者はプロトタイプを作って研究をしていたが、プロトタイプでは現場で使えない。つまり、実用機に仕上げることが求められる。その時、想定外の災害は起こらないからニーズがないと言われてしまえば、実用化は進まない。ここがカギである。浅間教授は、技術は生き物であり、実用化して維持しないと、いざという時の使えないという。備えのためには平時の利用が大事なので、現在、福島県に「災害対応ロボットセンター」を作ろうという話が進んでいる。

・ソフトバンクグループのアスラテックの吉崎航(チーフロボットクリエイター)は、ロボットのOS(オペレーティングシステム)を中心にソフト開発を行っている。転ばないロボット、やわらかい動きのロボット、人に合わせた動きをするロボットのソフト開発に取り組んでいる。ベンチャー企業としての難しさは、①ロボットが実際何の仕事をするのか分からない、②何ができるかわからない、③ビジネスとして儲かる仕組みが分からない、ところにあるという。ヒトとロボットの関係をしっかり見せていかないと、産業としての発展に結び付かないと吉崎氏は指摘する。

・サイバーダイン(CYBERDYNE、時価総額1800億円)の久野孝稔氏(メディア推進部部長)は、ロボットスーツで新産業を起こそうと意欲的に取り組んでいる。同社は昨年マザーズに上場したが、山海社長は筑波大学で20年以上研究を続け、現在の実用化に至っている。ロボットスーツHAL(ハル)を身に付けてリハビリを行うと、歩けない人が歩けるようになり、しかも歩くための脳神経細胞も育ってくるという事例が出てくるほど画期的なものである。久野氏は、「湘南ロボケアセンター」でハルフィットネスに取り組んでいる。ドイツでは極めて高く評価されているが、日本ではまだ医療として制度化されていないので、フィットネスの形で応用を進めている。藤沢市では、対象者1人当たり10回分まで支援してくれる仕組みを作り、登録者は300人に増えているという。

・ロボット産業が発展するには、1)ニーズドリブンの応用を推進する、2)新しいサービスを作っていくことを支援する、3)量産化して初めて安くなるので、当初の支援が必要である、4)民間が取り組めるように規制改革を行う、という指摘も重要であろう。ロボットアナリストの石原昇氏によると、日本は鉄腕アトムとドラえもんの国で、ロボットが生活に馴染み易い。確かにそうかもしれない。ハウステンボスにはこれから「変なホテル」ができる。そのホテルでは、ロボットがフルサービスを行うという。

・話し相手ロボットができるか、ファンドマネージャーの代わりに運用を行うFMヒューマノイドが実現するか、など夢はつきない。車も自動運転を取り入れて、実質的な移動ロボットになっていこう。こうした広がりを考えると、新産業は2兆円ではなく、20兆円以上の産業に育っていこう。新成長戦略の目玉として大いに注目したい。

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