年金よりも医療が深刻~制度改革とサービス革新に期待

2014/07/23

・高齢化にどう備えるか。社会保障制度改革推進会議の委員を務める清家篤慶応義塾長の話を聴いた。すでに何が問題かは分かっているが、今後の方向性を考える上での指針となるので、その骨子を整理してみたい。

・65歳以上の人が総人口の25%を超えた。元気な人も多いので65歳以上を高齢というのは時代に合わなくなっているが、65歳から74歳までの人口と、75歳以上の人口を比較すると、今は1:1である。これが10年後は2:3へ、40年後は1:2となり、75歳以上の人がこれから本格的に増えてくる。

・なぜ高齢化がこんなに目立つのか。それは経済成長の結果である。豊かになると、長寿化し、少子化となる。そして、これまでとは逆に、高齢化が経済にマイナスのインパクトを与えてくる。社会保障の費用増大で財政がもたなくなる、経済の担い手である生産人口が減る、国内消費が減少してくるので需要不足となる、人口減少で地域社会が崩壊してくる、というような不安がほぼ確実に迫ってくる。

・では、どうするのか。3つの手を考える必要がある。1つは、高齢化をマイルドにすることである。長寿化は止められないので、少子化を食い止めることである。子どもを増やすような政策が求められる。2つ目は、子どもが増えたとしても、労働に貢献するのは25年
かかる。労働人口が減らないようにするには、女性と高齢者にもっと働いてもらう必要がある。3つ目は、労働力が減少するので、社会保障の制度を変えて、財政が破綻しないように内容を見直すことである。工夫はしていくとしても、今までと同じような年金や医療サービスは受けられなくなる可能性が高い。

・大学を出た人の生涯賃金は2.5億円と試算される。最初の10年で0.5億円である。女性の場合、ここで結婚して家庭に入ってしまうと、2億円の放棄所得が発生する。これは社会にとって損失である。女性が子どもを産んでも、仕事と両立して子育てがきちんとできるように、子育て支援政策が必要である。仕事が両立できるように、待機児童は一刻も早く減らしていくことが求められる。

・2人目の子どもを産むかどうかは、子どもの父である夫が十分に妻を手伝ったかどうかに依存する。夫が子育てを手伝わないと2人目は作らない。遅く出社する、早く帰宅するなど、就業のフレキシビリティが男女とも当たり前になってくる必要がある。

・日々の労働時間が減っても、60代まで長く働くことによって、生涯労働時間は延びる。この方が効果も大きい。働く人が増え生涯労働時間が延びれば、一人当たりの社会保障負担は減ることになる。

・歳をとっても全員強制的に働けというのではない。引退は自由である。幸運にも日本は、働きたいという人が多い。60~64歳の75%は働く意思がある。これがドイツでは50%、フランスでは20%という調査結果が出ている。

・それには制度改革が必要である。今のような年功賃金を維持するのは無理である。年齢が上がると賃金が増えるという仕組みをかなり前からフラットにする必要がある。夫婦二人の収入で生活水準を維持し上げられるようにする。今のような60歳で再雇用はあるが報酬が激減するようなやり方では全く不十分である。

・65歳の人の平均余命は、男性で19年、女性で24年である。今のような仕組みでは、これは長すぎる。引退後20年も面倒をみる社会の仕組みはなかなか成り立たない。

・寿命に個人差はあるが、元気な人が多い75歳くらいまでは普通に働けるような社会にしていくことが求められる。75歳を過ぎると、病気になる人も急速に増えてくるので、どう健康を維持するか、予防医療が重要になってくる。

・現在、社会保障給付として年間110兆円を使っている。GDPが500兆円だから、その2割に相当する。110兆円のうち、9割を年金、医療、介護など高齢者に使っている。将来ともそれを支えてくれる子どものためには、わずか4%しか使っていない。若い人をサポートすることは、将来をサポートすることである、と清家先生は強調する。

・年金と医療・介護は性格が異なる。年金はお金の問題で、人数に比例する。リニアな増加なので、数値でみると現在の54兆円が2025年で60兆円となる。75歳以上が増えても、一人当たりの金額はふえない。一方、医療・介護は命に関わるので、簡単ではない。しかも75歳以上が増えてくると、一人当たりにかかる医療費は大幅に増えてくる。幾何級数的(ノンリニアー)に増大する。今の44兆円が2025年に74兆円、1.7倍にもなると見込まれる。しかも、医療と介護には、医療機関やヘルスケア関連のサービスプロバイダーが介在しているので、ここの協力が必要である。しかし、利害が錯綜するので、改革が難しい領域である。この10年、年金の未納問題ばかり話題になったが、それよりも医療・介護改革の方がはるかに重要である、と清家先生は指摘する。

・医療の何が問題か。若い人の病気は急性期で、すぐに治す必要があり、治ったらすぐに病院を離れる。それに対して、高齢期の病気は慢性期であり、完全治癒はない。病状を改善して、QOL(生活の質)を維持できるようにする。これには病院だけでは無理で、地域包括ケアが必要である。

・清家先生は2つのことを強調する。1つは、社会保障制度をサステナブルにするには、「支える力」が大事である。人口+労働+能力アップを図っていく。もう1つは、トレードオフを考える必要がある。将来の世代のために、今の世代は我慢する必要がある。自分のことだけではなく、次の世代も含めてみんなのことを考える。そして、これは単なる可能性ではなく、ほぼ確実に迫ってくる現実であるから、実学としての手を打つべきであるという。

・日本は高齢化先進国である。個々の解決策は世界にいくつも例はある。それを総合的に推進できれば、今度は日本が世界にソリューションを提供できる。そうなれるように、視野と心を拡げておきたい。同時に、それを担う新しい企業にも大いに注目したい。

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