日本の企業価値創造に求められるもの

2013/09/09

・日本企業の国際競争力は落ちている。トヨタをはじめ世界で戦っていける強い企業は数多くあるが、全体としての力は必ずしも十分でない。全国250万社の中堅中小企業(SMC)に対して、上場企業は3500社である。この3500社のうち直近のROEが8%(資本コストから見た要求水準)を超えている企業は1200社ほどで、全体の3分の1にとどまる。私自身が直接話を聴いた上場企業の中の超小型企業200社をみても、6割強の企業のビジネスモデルは十分磨かれていないか、かなり色あせてきている。

・投資家は輝く企業に投資すればよい、価値に比べて価格が安くなっている企業に投資すればよい、というのはその通りである。これから伸びる企業には投資したいが、競争力が陰ってきた企業に関わっている余裕はない、というのが実感であろう。しかし、それでは資本市場の役割として不十分である。上場している企業全社にもっと頑張ってほしい。いいものを持っているので、それを活かして、強みを磨いてもらいたいと思う。そのためにマーケットが果たすべき役割もあろう。アナリストから見れば、投資家の視点で会社を分析して、企業に改善を示唆することも意味がある。

・企業にすれば余計なお世話だというかもしれない。自分の会社のことはよく分っている。長期的な視点で手を打っている。目先の業績のことでいろいろ言われても出来ないことがある。さまざまな言い分があろう。投資家は業績のよい時は株主になってくれるが、調子が悪くなるとすぐに去っていく。本当に会社の将来のことをみてくれているわけではない、と突き放したくなるかもしれない。

・しかし、投資家を引き付けるのは会社の仕事である。企業価値を本当に創り出すべく努力をしているならば、それを分かってほしいと思うはずだ。不言実行という会社もあるので、いちいち説明などしたくない、実績を示した上で理解してもらえば十分である、という考え方もある。しかし、私はそれでは不十分だと考えている。もっと適切なコミュニケーションの方法がありうる。

・経営者から見ると、自分達は長期的経営を目指して実践しているが、投資家が短期的である。目先のことで一喜一憂して、会社にいろいろ要求を出されてもスタンスが合わないといいたくなろう。投資家にすれば、長期投資をしたとしても、この20年間でみると日本株についてはいいことがなかった。会社が発表する短期、中期の計画は大半が実現していない。長期投資は「敗者のゲーム」になってしまう。そこで、何よりも足元の確認を重視して、投資を考えていく。短期も当らないのに、長期が当るわけはないといいたくなろう。

・投資信託にしても年金にしても、四半期とか1年でパフォーマンスを比較するという競争の土俵がある。それに捉われる必要がないといっても、現実はうまくいかない。パフォーマンス競争で上位にいることが、何よりも求められる。

・ではどうするのか。企業をみると、‘価値創造の仕組みの信頼性’が乏しいといえる。一方、‘投資家の企業を見る目’が必ずしも十分でない可能性も高い。デイトレーダー、ヘッジファンドなど多様な投資家がいて何ら問題はない。しかし、長期投資家も含めて、投資家の層が十分でないというのが1つの課題である。

・そこで、5つの対応策を考えてみた。1つ目は、私たちは何に投資するのかという大義を再考して、“投資家は企業価値創造のプロセスに投資する”と定義する。そうすると企業をみる視点が明らかに変わってくるからである。

・2つ目は、ビジネスモデルにフォーカスすることである。ビジネスモデル(BM)とは、企業価値創造の仕組みである。そのBMが不十分で弱い企業が多い。ここの強化、再構築が必要である。BMを4つの軸で組み立てる。①構想力とリーダーシップにおいて、トップマネジメントは十分か、②イノベーションに取り組んで、それを実現しているか、③サステナビリティ追求する中で、社会的価値を創出しているか、④想定しうるリスクに対して、リスクマネジメントは十分か、という4つである。

・3つ目は、会社が次に作り上げたいBMを構築し、それを投資家に語ることである。BM を語ることが競争上不利になるならば、全てを話す必要はない。投資家は価値創造の仕組みを共有したいのだから、それに資するように対応してくれれば十分である。その上で、その目標とするBMを実現するための戦略(やり方)を語ってほしい。多くの日本企業はこのBMとそれを実現するための戦略の構築力が弱い。

・4つ目は、企業による企業価値創造の視点(わが社の価値創造の軸)と、投資家による企業価値評価の視点(投資家の価値評価の軸)をお互いに出し合って、そこにおける共通点、相違点を明らかにすることである。相違点について議論してみると、折り合いがつくことなのか、対立したままなのかが分ってこよう。その上で、アウフヘーベン(昇華)する道を探っていく。

・5つ目は、これらを踏まえて、1)企業価値創造のモデル(フレームワーク)を構築し、不確実な将来に対して、いかにサステナブルになるかを検討する。と同時に、2)企業価値評価のモデル(フレームワーク)を構築し、DCFモデルに捉われない評価システムを検討する。

・いずれも容易ではないが、新しい枠組みを作り、企業家と投資家が互いにそれを刷り込んで(インプリンティングして)ビジネスを実行するならば、新しいフロンティアを切り開くことができよう。フレームワークの材料はいろいろ揃っているので、実行できるところまでまとめていけば有益なものとなろう。

株式会社日本ベル投資研究所
コラム   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

コラム&レポート Pick Up