「マイナス金利」導入で金融政策の幅は広がったのか?

2016/02/05

日銀の「マイナス金利」導入を受けて始まった今週の国内株市場ですが、日経平均は週初こそ17,900円台まで上昇したものの、その後は上値を伸ばせず、2月4日(木)の取引は再び17,000円台割れの場面が見られるなど、水準自体は日銀会合前に戻ってしまった格好です。

先週末にあれだけインパクトを残したマイナス金利の導入ですが、一週間近く経った今でも、その影響や内容を精査する記事やコラムが多く取り上げられているほか、預金金利の引き下げをはじめ、10年債利回りが過去最低を記録し、3月に予定されていた個人向け国債(10年)の募集が中止されるなど、実際の影響も顔を覗かせはじめています。とはいえ、日経平均の水準だけで見れば、結果的にその影響は限定的にとどまっています。

マイナス金利導入についての細かい説明は他に譲りますが、日銀が意図しているのは、(1)これまで銀行が日銀の当座預金に資金を預けて金利収入を稼いできた分の一部(これから預けようとする分)をマイナス金利にすることで、その資金を企業融資に回して設備投資や賃金上昇を活発化し、経済の好循環と物価上昇目標を達成させる、(2)イールドカーブの起点を引き下げることで全体的に金利を押し下げ、国債中心の運用を困難にすることで、生保や年金などの運用リバランスを働きかける、(3)これまでの「質」・「量」的な金融緩和に「マイナス金利」という新たな手法を加えることで、今後の金融政策の選択肢の幅を広げることなどが考えられます。

(1)と(2)については、今後もそのねらいと効果について時間をかけながら見極めていくことになりますが、(3)については個人的に「選択肢自体は増えたかもしれないが、その効果は薄くなった」という印象を持っています。

その理由のひとつは、「マイナス金利導入の順序」です。すでに欧州ではマイナス金利が導入されていますが、足元のECB(欧州中央銀行)の金融政策の次の一手として、「3月の理事会で、資産購入額の拡大があるか?」に注目が集まっています。つまり、マイナス金利導入後に量的金融緩和が焦点になっているわけです。一方の日銀は量的緩和の限界説が囁かれる中でのマイナス金利導入となっているため、手詰まり感の印象は欧州よりも日本の方が強く感じます。

もうひとつは、「黒田日銀総裁の市場との対話能力」です。ECBの場合、市場との「対話型」でマイナス金利の導入を進めていきましたが、黒田総裁による政策実施手腕は、2014年10月末のいわゆる黒田バズーカⅡの時に代表されるように、「サプライズ型」と言えます。今回のマイナス金利導入についてもこれまで否定してきたにも関らず、突如として採用したため、市場が驚きに包まれました。それが却って今後の黒田総裁の発言に対する信憑性や、アナウンスメント効果による市場への働きかけを薄れさせてしまう可能性があります。

サプライズでマイナス金利の導入を実施するにはあまりにも突然で刺激が強く、現在もマイナス金利そのものの効果や副作用についての議論が続いている状況ですから、市場が受け止め切れなかったというのが、株式市場の動きからも感じられます。今回の決定が黒田バズーカⅢと評価できるかについては、もうしばらく時間が必要になりそうです。

 

 

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