ダイキン流イノベーションの起こし方-テクノロジー・イノベーションセンター開設

2016/03/01

 
ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター センター長 米田裕二 × 同副センター長 河原克己 × Longine IR部

ダイキン工業株式会社(証券コード6367。以下、ダイキン) テクノロジー・イノベーションセンター センター長 米田裕二氏及び同副センター長 河原克己氏に、2015年11月に開所されたテクノロジー・イノベーションセンター(以下、TIC)の設立経緯や研究開発体制、その狙いなどについてお伺いしました。
 
Longine IR部から投資家に伝えたい3つのポイント

・TICでは、空調機器を基盤にし、これまで以上に当社から空気や空間の価値づくりに関して積極的に提案していく計画。
・環境、エネルギー、健康に関する社会が抱える課題を解決し、世界の人々のライフスタイルを変えるような商品やサービスを提供することが目標。
・大学との産学連携にとどまらず、世界中の各分野の有識者をフェローとして招聘し、長期間にわたる技術指導や中長期で多岐な技術戦略立案への参画も今後、積極的にしていく。
 
ダイキンがTICを作った背景-これまでの競争から一歩抜け出す

Longin IR部(以下、Longine):ダイキンは、2015年11月に堺・滋賀・淀川製作所の国内3拠点に分散していた研究所を集約し、以降TICとして技術開発を進めることになります。なぜ、今TICとしてグループの技術開発拠点を集約するのでしょうか。

ダイキン工業株式会社 TIC センター長 米田裕二(以下、米田):空調を中心とした当社のコア技術を基盤に、これまで以上に当社から空気や空間の価値づくりに関して積極的に提案すべきだと考えたからです。ハードウェアとしての空調機器に関しては、当社はグローバルで見ても競争優位を確立できるようなシェアを獲得できている地域が多くあります。しかしながら、日本メーカーだけではなく海外メーカーも含めた競争はさらに激化すると考えられますし、そうなれば、ハードウェアの強み伝いだけでは、これまでのように付加価値を取ることが難しくなるだろうと考えています。TICにおける技術開発や外部の企業・大学・研究機関と連携・提携する協創イノベーション、いわゆるオープン・イノベーションを通じ、現在の競争環境から一歩抜け出したいという思いが背景にあります。

 

ダイキン1

ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター センター長 米田裕二

撮影:Longine写真部

 
Longine:TICでの活動を通じて、今後、ダイキンとしてどのような提案をしていく考えなのでしょうか。

米田:環境、エネルギー、健康に関する社会が抱える課題を解決し、世界の人々のライフスタイルを変えるような商品やサービスを提供することができることが目標です。たとえば、健康というテーマにおいてもやるべきことはたくさんあります。空調機器や空気清浄機で、こうした領域については既に取り組んでいるように見えますが、まだ十分に研究し尽くしたという印象はありません。未開拓の領域と言えます。

ダイキン工業株式会社 TIC 副センター長 河原克己(以下、河原):これまでの空調機器などは、私たちの活動する空間にとってネガティブな要因を「引き算」する機能を求めてきました。たとえば、家の熱気・湿気、ウイルスやPM2.5などの有害物質、悪臭を取り除くといった機能はすぐにお分かりになると思います。TICでは、空調機器のこうした「引き算」の機能だけではなく「足し算」の機能を追い求めていきたいと考えています。

 

ダイキン2

オダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長 河原克己

撮影:Longine写真部

 
Longine:空調機器の「足し算」とはどのような機能でしょうか。

河原:まだ、夢の部分もありますが、たとえば、空調環境によって、これまで以上に頭が冴えて仕事や勉強がはかどるとか、よく眠れるとか、健康寿命を延長するといったことに取り組んでいきたいと考えています。

Longine:そんなことが可能なのでしょうか。

河原:室内の温度差にメリハリをつけることで認知症の進行を遅らせることができるというような研究も発表されていますし、空調機器の稼働状況を把握することで、高齢者の安否確認をするような機能を盛り込むこともできるかもしれません。空調機器を通じて、私たちの生活にポジティブな要因を加えるという意味での「足し算」です。

Longine:TICでそういった新しい取り組みをしようと決めたのはいつ頃でしょうか。

河原:TICのもともとの構想は2005年にはありました。当時から、先ほど米田が申し上げたように、空調機器だけの競争ではなく、ハードウェアを基盤とした付加価値の高い空間の提案や空気に関係するコンテンツを提供したいと考えていました。しかし、2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災などが重なり、会社として当構想を具現化するのには時間がかかってしまったというのが実際です。2011年6月には、私がテクノロジー・イノベーションセンター推進室長となり、設立準備をし、ようやく2015年に開所することができました。
 
空調を変えるテクノロジーをどう生かすか-空調業界を取り巻く異種格闘技戦

Longine:TICでは、空調機器に関する技術だけではなく、異業種・異分野のユニークな技術との連携・提携も目的としています。その狙いについて教えてください。

米田:今後、テクノロジーの変化によって、空調機器や空調産業を取り巻く環境は大きく変わっていくと思います。インターネットの普及により、IoT(モノのインターネット)の世界がより現実になってきました。その中でも空調機器は、気温や空気中の異物をセンシング(感知・検知)し、同時に温度を調整したり、空気をきれいにしたりすることのできるアクチュエーターです。また、家庭や商業施設などで見れば、空調に伴うエネルギー使用量は依然として高い割合を占めており、空調機器はIoTの中でもユニークかつこれまで以上に重要なハードウェアになると考えています。そうした重要なハードウェアがネットワークにつながり、ビッグデータを収集し、その解析とともに新しい役割を期待されるのは当然です。そうした新たな事業環境の中で、これまでにないビジネスチャンスがあると考えています。事業環境の変化が予想される中で、当社にない経営資源は、積極的に外部を活用しながら事業機会を収益機会とするというのがTICの狙いです。

Longine:2014年1月には米国ICT(情報通信技術)産業大手のグーグルがサーモスタットメーカーのネスト・ラボを買収し、異業種もエネルギー監視などに興味を示しています。こうした競争環境の変化をどのように考えているのでしょうか。

米田:新しいテクノロジーを活用したり、既存のテクノロジーを組み合わせたりすることで、いつ、どのような企業が、どこから出現するか見通しにくい競争環境となりました。当社は空調機器というハードウェアには強みを持っていますが、ビッグデータの解析を含めICTに競争優位があるとは言い切れません。そうした領域では、外部と協業していく必要があります。

Longine:空調業界においてハードウェアとICTがこれまで以上に近接する中、ダイキンは、顧客との間でサービスや決済としての接点を持つプラットフォーマーを目指すのでしょうか、それとも、他社のプラットフォーム上でハードウェアを提供することを通じて、価値提案を追求していくのでしょうか。

米田:IoTの世界が広がってくれば、データを握っている企業や顧客接点の多い企業がより有利に事業を展開できる可能性は高くなるでしょう。社内でも、現在、様々な議論をしていますが、ハードウェアの領域で当社が高い市場シェアを持っている以上は、プラットフォーマーとして勝負をしたいと考えるメンバーが多いのは事実です。

河原:一方で、ハードウェア単独では勝負できても、当社がプラットフォーマーとしてグローバルで事業展開できるかどうかも検討しています。仮に、当社がICT領域を強化する目的でプラットフォーマーの役割を担える企業を買収するとしましょう。グローバルで存在感のあるICT企業を見渡して、当社が買収することができる企業の規模で、果たして巨大なICT企業と伍していけるでしょうか。そこは十分に考えなければならないと思います。また、外部のプラットフォーマーと協業するような場合でも、当社独自のアルゴリズムを活かした空調サービスを提供するようなモデルを確立すべきと考えています。プラットフォーマーを目指すにせよ、プラットフォーマーと協業するにせよ、当社が勝つ確率が最も高くなる施策を考えていきます。

Longine:オープン・イノベーションを進めた結果、良い技術・企業があった場合には、企業買収なども選択肢になると思います。これまでダイキンは、グローバルでの販路や品揃えを拡大する目的の買収をしてきました。今後は、技術を核とした買収の判断などではTICが関与していくのでしょうか。

米田:そのつもりです。技術に関係する買収案件などについては、TICが積極的に提案していくことになります。

 
TICの目指すイノベーション-社内外混然一体

Longine:TICで現在進行中の研究開発テーマについて教えてください。

米田:取り組んでいる数としては200以上のテーマがあります。社内で数多く出てくるテーマを俯瞰しながら、侃侃諤諤の議論をした上で、最終的に取り組むかどうかはセンター長である私一人が決めています。そこは当社らしいというか、「人基軸」ですね(笑)。また、取り組む時間軸もテーマごとによって異なっており、短いものは3か月から、長いプロジェクトでは7年に及ぶものもあります。

Longine:ダイキンだけではなく、他企業でもTICと同様にオープン・イノベーションをコンセプトとする研究所があります。TICは他の研究所とはどこが異なるのでしょうか。

米田:私たちもTICの具体的な構想を練る段階で、国内外の多くの研究所やイノベーションセンターを見学させてもらいました。その中で気づいたことは、研究所などでの技術開発や研究が、実際の事業と乖離していることが多く、研究者だけで新しいビジネスモデルを含めて考えるのは無理があるということです。また、技術者は、自分ができることから発想をスタートさせることが多く、技術者に自分の専門領域外のアイデアを掛け合わせて新しいビジネスモデルを描けといっても、なかなか難しいという現実があります。TICは、商品化の一歩手前のテーマにも取り組んで、事業としての収益性に軸足を置きながら研究開発に取り組んでいる点が特徴だといえます。

Longine:外部の知見を取り込むという点に関してはいかがでしょうか。

米田:はい、その点に関してはTICでは、大学との産学連携にとどまらず、世界中の各分野の有識者をフェローとして招聘することになっています。フェロー室も7室用意しており、長期間にわたるフェローによる技術指導や、当社技術者とともに中長期で多岐な技術戦略を立案することも今後、積極的に展開していく準備が整っています。

ダイキン3

TICの「ワイガヤステージ」にて

撮影:Longine写真部

 
Longine:TICが事業性を重視したテーマに取り組んでいるのは理解できましたが、それだけではICT領域での取り組みや長期的にライフスタイルを変えるようなテーマが手薄になってしまわないでしょうか。

米田:TICをスタートする前は、時間軸の短い目先のテーマに取り組むことが多かったのは事実です。しかし、TICでは、将来のことをじっくり考えることができるよう、エネルギー、空気質といった領域と、TICの成果を最大化するためのリサーチ機能とテーマの企画・管理を行う戦略室に人材を集約しました。TICには約700名の技術者がいますが、そのうち10%程度を長期のテーマを検討する要員として割り当てています。今後は、こうしたテーマで、当社がどのように手を打つべきかを検討していくつもりです。

Longine:本日は長時間ありがとうございました。

米田・河原:こちらこそありがとうございました。TICから空調のあり方を変えるような提案をしていきたいと思いますので、ご期待ください。

 

 

 

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