オムロンのCTOが語る「技術経営」

2016/02/29

オムロン株式会社 執行役員常務CTO 宮田喜一郎 × Longine IR部

オムロン株式会社(証券コード6645。以下、オムロン)の執行役員常務CTO 宮田喜一郎氏に、CTOの役割やオムロンの技術の強み、また同社が実現したい未来の取り組みなどについてお伺いしました。
 
Longine IR部から投資家に伝えたい3つのポイント

・オムロンのCTOは、全社の技術戦略を経営視点で統括する。
・「コンポ化技術」がオムロンの強み。
・多事業×自動化で新たな価値を生み出す。
 
CTOの役割とは-技術を経営から俯瞰する

Longine IR部(以下、Longine):オムロンは、2015年にCTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)のポジションを新たに設置しました。CTOの位置づけと役割について教えてください。

オムロン株式会社 執行役員常務CTO 宮田喜一郎(以下、宮田):オムロンには、従来からコア技術の開発を行う技術本部のトップというポジションはありました。今回新設したCTOと従来の技術本部トップとの違いは、経営として技術戦略を考えるという役割を明確に定義したことです。

Longine:これまでもオムロンの各事業部門が技術をベースに戦略を考えてきたと思いますが、CTOの存在で何が変わるのでしょうか。

宮田:私もCTOになって気づいたことですが、カンパニー制度を突き詰めると、事業部門ごとの技術の完成度は高まります。しかし、事業の狭間にあるニーズを見落としてしまう可能性も出てきます。また、遠い将来の戦略を考える場合に領域を狭めてしまうことにもなりかねません。このため誰かが事業の枠を超えて将来の技術トレンドを読み、意思決定をしていく必要性が出てきます。

Longine:確かに、将来の技術トレンドを考える点において長期目線は必要になりますね。では、過去のご経験の中で長期の目線が欠けたことで苦労したことはあるのでしょうか。

宮田:私はCTOに就任する以前は、ヘルスケア事業を担当していました。開発部長時代にヘルスケア機器のネットワークサービスを手掛けていたのですが、当時はパソコンベースですべてのシステムを構築していました。その後スマートフォンが急速に普及したため、パソコンベースからスマホに対応するために多くの手間とコストが必要となりました。さすがにここまでスマートフォンが普及すると読めていなかったのが、今となっては苦い思い出です。

Longine:確かに、スマホの普及は驚くべきスピードだったと思います。では、CTOとして、どれくらい先の技術の潮流や社会の変化を予測しようとしているのでしょうか。

宮田:現状は2030年くらいを設定しています。ただし、先ほどのスマホの例のように、あっという間に大きな変化が来る場合もありますので、正確に予測するのは困難です。たとえば、工場の自動化の加速というテーマに関して言えば、省人化や安全性向上というニーズから、この自動化の流れはこの後も止まらないでしょう。将来どのような変化がどのような形で起こるのか、シナリオをいくつか用意しながら考えています。当社は、その中でカギとなるような技術やアプリケーションに積極的に取り組んでいこうとしています。

オムロン1

出所:会社資料

Longine:では、自社のコア技術と将来のシナリオをどのように経営に生かしていくのでしょうか。

宮田:詳細はもちろん開示することはできませんが、まずフラッグシップテーマと呼ぶ技術や社会の変化と当社が持つ複数のコア技術を掛け合わせ、マトリックスに表現します。その交点で当社の取り組みをマッピングし、現在自分たちはフラッグシップテーマに対してどのような関連性を持っているのか、また今後どのように深堀りをしていけるのかを見極めています。

Longine:マッピングした結果、オムロンとして十分でない、または欠けている領域はどうするのでしょうか。

宮田:買収や投資、オープン・イノベーションとして外部のリソースを活用します。ただ、やみくもに外部のリソースを活用するという意味でのオープンではありません。マトリックスを作成し、マッピングをしたのちにどこの領域で外部リソースを活用するのかという議論を先にします。制御機器事業で、2015年10月に米国のロボット企業であるアデプト テクノロジー社を買収しましたが、その買収も未来に起きるであろうシナリオに沿って、今後必要な領域を買収した例です。

オムロン2

オムロン株式会社 執行役員常務CTO 宮田喜一郎

撮影:Longine写真部

 
オムロンの技術の強み-技術の組み合わせと組み込み技術

Longine:オムロンの技術の強みについて教えてください。

宮田:一言で申し上げますと、「保有する様々な要素技術をお客様ニーズに合わせて組み合わせ、コンポ化する技術」です。先ほどのマトリックスであげたコア技術がオムロンの技術の一部だと言えるのですが、コア技術一つずつを見ると、必ずしも尖ったものばかりではありません。技術だけ見れば、それぞれにピカイチのベンチャー企業も数多く存在します。当社は単一の技術領域にこだわらず、お客様のニーズに合わせ、保有している技術を組み合わせながら製品に組み込んでいくことに関しては競争優位があると考えています。

Longine:その「コンポ化する技術の強み」について、もう少し具体的に教えていただけないでしょうか。

宮田:どれだけ優れたコア技術を持っていても、コンポーネントや最終製品に組み込む難しさが存在します。ハードウェアやコストの制約もあります。例えばベンチャー企業では、単一の技術に関しては尖った要素を持っていても、商品に組み込む術を持たない場合も多いのではないでしょうか。組み込み技術の肝は、ハードウェアのノウハウを知り尽くすことです。製品に組み込む多くの経験の中でハードウェアの隅々まで知ることで、その性能を100%以上発揮させるというような経験をしてきた企業とそうでない企業では当然差が出ます。
 
オムロンの技術の進化

Longine:オムロンの技術コンセプトを表すフレーズとして、”Sensing & Control” をよく耳にしてきましたが、最近はその2つに+ Think” という言葉を加えていますよね。この変化について教えてください。

宮田:ものごとの状態を感知(Sensing)し、その情報を処理し制御(Control)するという概念、これがSensing & Controlです。そのプロセスの中に人間の考え(Think)を加えるのが、”Sensing & Control + Think”です。たとえば、プログラミングされたルーティン動作だけでなく熟練した作業員がその状況に合わせて作業するようなノウハウを実現できるコントロールシステムには、人の知恵ともいうべきもの、つまり ”Think” が入っています。血圧を計るだけではなく、血圧を計りながら異常値を感知したら健康にかかわる他の指標をはじき出すといったような、ユーザーが欲しいであろう+αの情報を提示することこそが”+ Think” です。
 
未来に向けたオムロンの価値創造

Longine:オムロンの技術は今後どのような場面で活用されていくと想定しているのでしょうか。

宮田:もともとオムロンは、機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な仕事を楽しむべきである、という思想が創業当時から受け継がれています。ファクトリーオートメーション(FA)をはじめとする産業領域や社会、生活、環境の領域で人と機械が協調する未来を実現したいと考えています。

Longine:「機械による自動化」という点で、オムロンの強さはどこにあると理解すればよいのでしょうか。

宮田:まさに、“+ Think”の領域です。たとえば、生産現場で使用されるファクトリー・オートメーション(FA)でも、機械は今後極めて人間に近い動きをするようになるでしょう。何か特別なトラブルが起きてもその状況を自ら考えてコントロールし、人間の意思決定による操作がなくても生産ラインを正確に止めるといったことも、これまで以上にできるようになるでしょう。

Longine:「自動化」についてですが、複数の事業領域にまたがるようなアプリケーションもあるのでしょうか。

宮田:当社の場合には事業領域が制御技術から車載、ヘルスケア等と多岐にわたっており、技術のストックが多くアイデアも豊富です。結果として、これまで定義されてきた領域をまたぐクロスボーダーの取り組みが多くのお客さまから期待されています。たとえば、車載事業が手掛ける自動運転においては、あくまで責任能力の担保という点でドライバーが正常な意識状態かを見極め、これまで以上に安全性を確保することが求められます。そこで、例えばヘルスケア事業が持つ生体情報センシング技術を組み合わせ、運転者が異常な状態にあると判断する時は運転を自動的に止めるといったアプリケーションが考えられます。ヒトの状態をモニタリングするにしても、実験室でたくさんセンサーをつけてやるのは簡単です。しかし、現場では最小限のセンサーを使用してお客様が使い易い状態にし、精度を出すことが求められます。したがって、最終的には、製品としての組み込み技術が重要になってくるわけです。

Longine:なるほど。Sensing & Control + Think技術に加え、事業領域の広さと組み込み技術がそういった場面で生かされるのですね。本日は長時間ありがとうございました。

宮田:こちらこそありがとうございました。

 

 

株式会社ナビゲータープラットフォーム
Longine企業IRレポート   株式会社ナビゲータープラットフォーム
産業・企業に精通した証券アナリストが集うLongineが、上場企業を株式投資家の目線で分析します。Longine企業IRレポートは、対象企業の依頼に基づき、対象企業の特徴を周知すること、読者に情報を提供することのみを目的として作成しています。掲載ページ(Longine:https://www.longine.jp、株1(カブワン):http://www.kabu-1.jp
企業IR記事に関する重要事項(ディスクレーマー)
  1. 本記事は、株式会社ナビゲータープラットフォーム(以下、「当社」)または執筆業務委託先が、対象企業の依頼に基づき、対象企業から対価を受け取って作成しています。対象企業の特徴を周知すること、読者に情報を提供することのみを目的として作成したものであり、投資に関する意見や判断を提供するものではなく、証券その他の金融商品の売買その他の取引の勧誘を目的としたものでもありません。
  2. 本記事は、当社または執筆業務委託先が、対象企業への取材で得た情報をはじめ、信頼に足ると判断した情報源に基づき作成しますが、完全性、正確性、または適時性等を保証するものではありません。
  3. 本記事で提供される見解や予測は、記事発表時点における当社または執筆業務委託先の判断であり、予告なしに変更されることがあります。
  4. 当社は、記事における誤字脱字等、記事の大意、結論に影響が無いと当社が判断する修正に関しては、読者に特段の通知をすることなく、行うことがあります。
  5. 本記事で提供される如何なる情報等および調査・分析記事に、またはそれらの正確性、完全性もしくは適時性等に、読者が依拠した結果として被る可能性のある直接的、間接的、付随的もしくは特別な損害またはその他の損害について、当社および当社に記事を提供する執筆業務委託先は責任を負うものではありません。
  6. 本記事に掲載される株式等の有価証券および金融商品は、企業の活動内容、経済政策や世界情勢など様々な影響により、その価値を増大または減少することもあり、また、価値を失う場合もあります。投資をする場合における当該投資に関する最終決定は、必ず読者ご自身の判断と責任で行ってください。
  7. 当社および執筆業務委託先は、記事の内容に関する読者からのご質問への対応など、個別相対性のある追加サービスは行いません。但し、記事内容につき不適切な内容があり、当該内容について確認、修正、削除依頼をいただく場合はこの限りではありません。
  8. 本記事に掲載されている内容の著作権は、原則として当社または執筆業務委託先に帰属します。本記事で提供される情報は、個人目的の使用に限り、配布また頒布が認められますが、原則として、読者は当社の承認を得ずに当該情報の複製、販売、表示、配布、公表、修正、頒布または営利目的での利用を行う権利を有しません。
  9. 本重要事項(ディスクレーマー)は随時アップデートされることがあります。最新の内容をご確認ください。
企業IR記事に関する当社および執筆者による表明
  1. 対象企業から対価を受け取って企業IR記事を執筆する場合、当該契約期間中、当社および執筆業務委託先がLongine(ロンジン)において、対象企業に対する投資に関する意見や判断に言及する記事を執筆することはありません(契約開始以前の記事は掲載を継続し、また、契約終了後は投資に関する意見や判断に言及する記事の掲載を行うことがあります)。但し、特定のテーマに関する関連銘柄として複数企業を紹介する場合において、対象企業がその内の一社であるようなケースでは、関連銘柄の一例として紹介することがあります。
  2. 当社及び本IR記事の執筆に関与した執筆業務委託先と対象企業との間に重大な取引関係、利益相反関係はなく、また、当者及び本IR記事の執筆に関与した執筆業務委託先は対象企業の株式(転換社債を含む)を保有していません。例外的に株式保有や重大な取引関係がある場合は、IR記事の末尾にその事実を明記致します。

コラム&レポート Pick Up