オムロンの成長を支える財務戦略-M&Aと事業ポートフォリオマネジメント

2015/10/23

オムロン株式会社 代表取締役副社長CFO 鈴木吉宣 × Longine IR部

オムロン株式会社(証券コード6645。以下、オムロン)代表取締役副社長CFO 鈴木吉宣氏にCFOの役割やM&A戦略、事業ポートフォリオマネジメントについてお話を伺いました。
 
Longine IR部から投資家に伝えたい3つのポイント

・オムロンのCFOは、単なる財務管理の最高責任者ではなく、CEO(最高経営責任者)の目線を併せ持っている。
・直近2件のM&Aによって、制御機器事業は工場の自動化に必要な一連の商品群を揃えることができた。
・事実(データ)と将来性をもとに事業を評価し、事業ポートフォリオマネジメントを行っている。
 
三位一体経営の中でのCFOの役割-CEOの目線を持ったCFO

Longine IR部(以下、Longine)オムロン山田義仁社長へのインタビューではCEO、CFO、CTOによる三位一体経営についてお話を伺いました。今回は、その中でCFOの位置付けや役割について教えてください。

オムロン株式会社 代表取締役副社長CFO 鈴木吉宣(以下、鈴木):私の最大の役割は事業及びグループの成長戦略を財務面で判断することです。たとえばCTO(最高技術責任者)が持ち込んでくる新しい事業領域へのチャレンジなどは、既存事業での収益性を参考にしながら将来性を評価し、財務の視点で新規事業として取り組む、取り組まないという判断をしています。判断にあたって、私は単なる財務管理の最高責任者ではなく、「CEO(最高経営責任者)の目線を持ったCFO」でありたいと考えています。

Longine:CFOとしてCEOの目線も併せ持つということですが、特にどのような点を意識しているのでしょうか。

鈴木:最近特に感じるのは、トップマネジメントに近づくほど、業務の領域を限定せずに、その分全てを見なければならないということです。与えられた役割をこなすのではなく、自ら役割を作っていかなければいけません。会社全体を俯瞰して、経営者としてどのような変革を行えばよいかを常に考えています。

Longine:会社全体を俯瞰する点に関しては、CFO就任以前の経験はどのように役立っているとお考えですか。

鈴木:私は車載事業のトップを2007年度から6年間ほど務めました。私が着任した当時は、赤字が何年も続いていました。 2000年頃から自動車の電装化が進み、順調に売上高は伸びていきましたが、同時にお客様からのリクエストも増加しました。そして、お客様の要望をなるべく実現しようと多くのプロジェクトにチャレンジしていました。その結果、様々な局面で無理や無駄が生じることで収益性を悪化させていました。ですから、まずは赤字脱却を第一優先として、計画をつくり実践していきました。その中では不採算事業の整理を行いましたが、将来性のあるものは残しました。

Longine:事業の立て直しが喫緊の課題だと、将来への成長戦略を考える余裕はなかったのではないでしょうか。

鈴木:赤字の時は、頭の中では収益が7、成長が3の比率でした。事業を立て直すまでは収益改善に多くの時間を割いていましたが、黒字に転換してからは、逆(3対7)にしました。ただし、重要なことはどんな状況下でも常に成長機会を意識することです。車載事業は、事業化や商品化までの期間が長く、常に数年先を見据える必要があります。足元の収益性を求めるだけでは経営はできません。自動車産業全体の中で、未来を展望して、事業を俯瞰し経営することが必要です。longin1

オムロン株式会社 代表取締役副社長CFO 鈴木吉宣

 
オムロンのM&A戦略とは

Longine:オムロングループの長期経営ビジョンであるValue Generation 2020(以下、VG2020)を達成するためには、既存事業の成長だけでなく、外部の資源も取り込むM&Aも欠かせないと思います。M&Aではどのような領域や切り口で投資をしているのでしょうか。これまでの実績も踏まえて考え方を教えてください。

鈴木:まず10年の長期経営ビジョンであるVG2020では、2020年度までに売上1兆円以上、営業利益率15%という目標を掲げています。この目標の達成には、3つの基本戦略に則ってM&Aやアライアンスを積極的に進めることが欠かせません。3つの基本戦略とは、制御機器事業を中心としたIA(インダストリアル・オートメーション)事業の最強化、新興国市場の開拓、新規事業の強化です。実際に昨年度からの3年間でM&Aを含む成長投資を1000億円程度行う決心をしています。7月に発表したデルタ タウ データ システムズ(以下、DT社)、9月に発表したアデプト テクノロジー(以下、AT社)のM&Aは、まさにIA事業の最強化を目的としたものです。

Longine:IA事業の最強化に向けて重要視しているポイントや今回のM&Aの狙いについて教えてください。

鈴木:幅広い商品ラインナップの更なる強化と、販売チャネルの拡大に重点を置いています。直近2件のM&Aでは商品ラインナップを強化しました。制御機器事業はセンサーやコントローラーで幅広く商品を揃えていますが、サーボモーターなどの駆動系の領域は相対的に弱く、ロボット領域は事業として保有していませんでした。駆動系の領域に強みを持つDT社、組立ロボットに強みを持つAT社を手に入れたことで、当社に足りない領域を強化できただけでなく、工場の自動化に必要な一連の商品群の全領域を揃えることができました。

Longine:「工場の自動化に必要な領域」というお話がありましたが、具体的にはどのようなものでしょうか。

鈴木:図表1を参照ください。生産現場では、センサーなどで生産に必要な情報をInput(入力)し、その情報をもとにコントローラーがLogic(制御)を行い、サーボモーターなどの駆動系がOutput(出力)を実行しています。これだけでなく生産現場で必要なSafety(安全)とRobot(ロボット)を加えた5つの領域が、工場の自動化に必要なものだと考えています。ご覧のとおり、オムロンはこの全領域でそれぞれ強みのある商品を持つことができました。

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CFOとしての事業ポートフォリオマネジメントとは

Longine:オムロンは100近い事業ユニットを、売上高成長率とROIC(投下資本利益率)の2軸で4象限に分け、事業ポートフォリオを管理しているとお聞きしました。ポートフォリオを管理する上では、既存事業の撤退も重要だと思いますが、どのように運用されているのでしょうか。

鈴木:事業に携わっていると愛着も出ますし、やめるというのは苦しい決断になります。お客様の笑顔を思い浮かべた時や社員の顔を見た時は特に事業撤退の決断は難しくなります。しかし、私はCFOとして合理的な経営判断を行う立場にあります。現場は往々にしてバラ色のシナリオを描きがちですが、将来性のない事業を延命させるわけにはいきません。また一部の事業の不調により全社に悪影響を与えることもあります。そうした事態も想定してポートフォリオを管理しています。私の役割は社内の事実(データ)をもとに事業評価をしながら、たとえば2年後、3年後の可能性を考えることです。そして今、やめるべきかそうでないかといった判断について、CEOや事業部門に対して進言します。現場が事業の継続に固執して適切な判断ができない場合には、私から撤退の指示をすることもありえます。

Longine:事業を評価する期間は3年が1つの目安になるのでしょうか。また、時間を区切って評価をすることの難しさなどがあれば教えてください。

鈴木:新たにPDCA(計画―実行―評価―改善)を回す時間軸は最長3年を一つの区切りとしています。ただ、時間軸を固定化すると、事業環境がどんどん変わっていく中で評価が難しくなることもあります。たとえば、すぐに芽は出なくても、研究開発を続ければ3年後、4年後に大きく成長が期待できる事業もあります。このような場合は、全社最適と将来性を考慮して事業の継続を判断する必要があります。

 
今後の財務戦略-成長投資とポートフォリオマネジメントの効果を最大化

Longine:今後もM&Aを実施する機会が増えると、財務内容が変化する可能性があります。資本政策を含めどのような財務体質がバランスとして心地よいのでしょうか。

鈴木:財務を預かる立場として、“Cash is King(現金は最強)”という考え方が根底にはあります。何か危機的状況に追い込まれた時に、現金があるというのは心強いです。一方VG2020 の中では、成長投資をすることで将来の事業機会を積極的に生み出すことを重要視しています。また投資に見合う利益成長を追求しなければなりません。その観点からすれば、今の姿が最終形ではないと思います。

Longine:図表2は世界の制御機器メーカーの総資産と株主資本比率を示したものです。オムロンの財務内容を見ると、株主資本比率は70%を超えており、世界の制御機器メーカーでは圧倒的に健全な財務体質といえます。一方で、オムロンの競合企業は事業規模の差こそあれ、財務レバレッジをかけることで総資産規模を拡大し、事業展開を行っています。この差はどのようにお考えでしょうか。

 

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鈴木:オムロンは収益性の高い事業を展開し、これまでも優良な資産を受け継いできました。今後も資産を活用しながら事業エリアやドメインを拡大するためには、財務面でも前向きにリスクテイクをしていく必要があります。更なる成長のために必要であれば、財務レバレッジをかけることも厭いません。私は、「CEOの目線を持ったCFO」として、今後も必要な資源を確保し、事業ポートフォリオマネジメントに則った経営判断を行っていきます。

Longine:本日は長時間ありがとうございました。

鈴木:こちらこそありがとうございました。

 

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