オムロンの成長力と稼ぐ力を支えるしくみとは

2015/07/30

オムロン株式会社 代表取締役社長CEO 山田義仁 × Longine IR部

オムロン株式会社(証券コード6645。以下、オムロン)代表取締役社長CEO 山田義仁氏に同社の新たな経営体制、制御機器事業や成長戦略についてお話を伺いました。

Longine IR部から投資家に伝えたい3つのポイント

●CEO、CFO、CTOとの三位一体経営により、顧客需要の多様化や事業環境の変化にスピーディーに対応している。
●生産現場での人と機械のベストマッチングがいま起きつつあり、こうした変化はオムロンの制御機器事業の成長機会となる。
●オムロンは持続的な成長を目指し、3つの基本戦略を着実に実行している。

「成長力」と「稼ぐ力」

Longine IR部(以下、Longine):山田社長が就任されたのは、ちょうど東日本大震災直後の時期でした。ある意味で、極めて難しい時期に新社長として経営のかじ取りをスタートされることになったわけですが、社長に就任する以前の経営との関わりについて教えて下さい。

オムロン株式会社 代表取締役社長CEO 山田義仁(以下、山田):私は社長就任の1年前の2010年にヘルスケア事業のトップからオムロン全社を統括するグループ戦略室長になりました。その際の私の主なミッションは向こう10年にわたる長期ビジョンVG2020の策定でした。その後、2011年6月からグループCEOとして経営を引き継ぎ、自らが作った10年ビジョンを実践する立場になりました。

Longine:長期ビジョンVG2020を策定する上で力を入れたポイントについて教えてください。

山田:VG2020策定時におけるオムロンの最大の課題は、いかに「成長力」を取り戻すかということでした。VG2020以前の10年ビジョンであるGD2010の期間には、ITバブルの崩壊やリーマンショック、或いは急激な円高の進行があり経営にとっては逆風となりました。そのような中でも売上成長を果たすことができましたが、10年間の売上高成長率が4%というのは低すぎたと言わざるを得ません。

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SPEEDA、会社資料をもとにLongine IR部作成

Longine:図表1を見ますと、1991年度から2000年度までの売上高の年平均成長率(CAGR)は+2%、2001年度から2010年度は+0.4%と決して高い成長率とは言えません。しかし、2011年度から2015年度の会社予想を含めた売上高の年平均成長率は+8%にまで改善しています。数字を見る限り成長力は明らかに回復したといえます。VG2020で売上成長以外に力を入れたポイントはありますか。

山田:もうひとつは「稼ぐ力」を取り戻すということです。売上総利益率を評価指標とし、売上高を拡大しながら同時に収益性の向上を目指しています。

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注:決算期に関してはロックウエルとシーメンスは9月、シュナイダーは12月
出所:会社資料をもとにLongine IR部作成

Longine:図表2は世界の制御機器メーカーの2011年度から2014年度の売上総利益率推移を示したものです。図表1でも見たようにオムロンの売上総利益率は売上高の伸びとともに上昇しています。また、オムロンの2014年度の売上総利益率は39%で、すでに米ロックウエルや、仏シュナイダーといった世界の制御機器産業の主要企業と同水準の利益率となっています。今後、オムロンは収益性をさらに高めることは可能でしょうか。

山田:売上総利益率はまだまだ上げていけると思っています。引き続き経営管理上の最重要指標の一つとして位置付けて持続的な「稼ぐ力」の改善を図っていきます。

事業トップ経験者による三位一体経営-CFOとCTOの理想的な役割とは

Longine:2年前にCFO(最高財務責任者)を、今年度からCTO(最高技術責任者)を設置・任命し、経営の体制を変更されています。その狙いについて教えてください。

山田:全社的な戦略策定・実行をする際にCFOやCTOの存在が不可欠だからです。オムロンはビジネスカンパニーの集合体です。その個々の事業を強くするステージから、現在はそれぞれが持つ力を存分に生かして全社最適を目指して経営するステージに入ってきました。たとえば、M&Aの実行や全社的な技術戦略を加速していきます。

Longine:全社的な技術戦略を作り上げることでどのような提案ができるようになるのでしょうか。

山田:オムロンが提案する自動車向けの部品を例にご説明します。自動運転を行うときに、運転手の状態を常時監視するモニタリング機能は大きな開発テーマです。自動車メーカー様から、ヘルスケア事業で養った生体情報のセンシングを活かした提案を求められることもあります。またヘルスケア事業に加え、道路交通事業で実績のある社会システムや、ファクトリー・オートメーションなど多彩な事業を保有しているオムロンだからこそ、他の自動車部品の専業メーカーとは異なる提案が期待されています。そして、これを実現するにはそれぞれの事業部門が連携する必要があります。

Longine:事業部門や産業をまたぐ、これまでにない尖った提案をいくつもこなしていくのはハードルも高いでしょうし、リスクもあるのではないでしょうか。これはどなたが司令塔としてとりまとめを行うのですか。

山田:以前は私がCEOとして統括していました。ただし、私ひとりでは限界を感じたので、それまで車載事業のトップを務めていた、鈴木吉宣(現副社長)を経営のパートナーとしてCFOに任命しました。全社最適をどうすればいいか、どこに経営資源を投入すべきかという運営をともに考え、判断できる体制にしています。また全社の技術戦略を一層加速するため、今年4月にヘルスケア事業のトップであった宮田喜一郎をCTOに任命し、私の権限を委譲しました。

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オムロン株式会社 代表取締役社長CEO 山田義仁

Longine:パートナーとして位置づけたCFOにはどのような役割を期待しているのでしょうか。

山田:ひとつは事業ポートフォリオマネジメントです。オムロンでは企業理念を求心力として、事業を通じて社会的課題を解決するという考え方が深く社内に浸透しています。たとえば自動改札機やCD(キャッシュディスペンサー)・ATMを作り、世界初のイノベーションを起こしたのも、その発想からです。おのずとオムロンの社員は様々なことにチャレンジしたくなります。しかし、やりたいことを全部やろうとするとリソースが分散してしまいます。私はリソース分散により、結果として重要な局地戦で負けることを一番恐れています。私はCEOとしてそのリソースを適正に配分していかなくてはなりません。そのためにも、CFOには経済合理性を勘案した数字面での判定・評価を求めています。私はその結果も踏まえ、事業への投資や撤退を決心しています。

Longine:撤退する判断というのはどんな経営者でもどんな企業でも一番難しいと思いますが、どのような基準で判断するのでしょうか。

守安:われわれはROIC経営を実践しています。すなわち、投下資本に対してどれくらいのリターンを上げているかをチェックして経営を行っています。当社には6つの事業セグメントがあり、さらに細分化すると100ぐらいの事業ユニットが存在します。この全部をROIC(投下資本利益率)と売上高成長率の2軸を使った四象限のマトリクスにあてはめて事業価値を評価し、撤退の判断を行っています。

Longine:テクノロジー企業でCFOとCTOがうまく機能すれば、どのようなメリットがあるのでしょうか。

山田:お客様の需要は多様化しています。求められる内容も複数の事業部門に関連したり、また様々な技術を掛けあわせる必要があったりします。時代の流れが速いので、事業として筋の良いものとそうでないものを速やかに見分けないといけません。様々なチャレンジをしながら、常に財務と技術の観点でふるいにかけ続けるためにはCFOとCTOの両方の機能が必要です。これからもCEO、CFO、CTOとの三位一体となった経営によってさらなる持続的な成長を実現していきます。

制御機器事業の成長戦略

Longine:オムロンの収益の柱は制御機器事業です。制御機器事業の事業内容を教えてください。

山田:一言で言えば、制御機器事業は「製造業のための製造業」です。ものづくりのプロセスは時代とともに姿を変えますが、ものづくりそのものは世の中からはなくなりません。自動車やスマホなど、製品の高機能化に伴い、ものづくりの工法や生産ラインもどんどん変化します。この変化に対して、われわれは最適なアプリケーションや商品を提供することで、ものづくりの更なる発展に貢献していきます。

Longine:今後のものづくりはどのように変化していくのでしょうか。

山田:新興国においても、人間が手で行っていた製品の組立や、目視で行っていた検査工程の自動化が進んでいます。また、完全な自動化ではないにしても、ある工程は人間が関与し、ある工程は機械が行うというように変わっていくでしょう。人と機械のベストマッチングがいま起きつつあります。こうした領域はオムロンが最も得意としている領域であり、この分野で事業を成長させていきたいと考えています。

Longine:2016年度は「連結営業利益率目標10%以上」を掲げていますが、VG2020では15%です。VG2020の目標を達成するためには利益率の高い制御機器事業の成長は欠かせません。今後の成長戦略について教えてください

山田:制御機器事業の営業利益率は、既に15%を超えています。この制御機器事業の収益性をさらに高めること、そして事業の成長を加速させて全社に占める売上高構成比率を高めていくことが、VG2020の目標を達成するうえでの鍵になります。さらに成長を実現させるM&Aやアライアンスも積極的に進めていきます。

オムロンの成長戦略

Longine:VG2020で成長のための3つの基本戦略を掲げられています。M&Aもこれをベースに考えているのでしょうか。

山田:その通りです。3つの基本戦略の1つめは制御機器を中心とするIA(インダストリアル・オートメーション)事業の最強化です。制御機器事業の強みのひとつは商品の幅広い品揃えですが、常に一層の強化を目指してM&Aを活用して補強する選択肢を考えています。2つめは新興国市場の開拓です。われわれの幅広い商品群をお客様に届ける販売チャネルを買収する、または販売チャネルを持っている現地のブランドやメーカーを買収するということも考えています。最後は新規事業の強化ですが、その中でも環境関連事業に注力しており、M&Aも活用してさらなる成長を目指しています。

Longine:昨年は2つめの新興国の売上を拡大するためのM&Aを実施されましたが、詳しく教えてください。

山田:ヘルスケア事業で2014年10月にブラジルのネブライザの生産・販売会社(NS社)を買収しました。この買収により、オムロンはネブライザで世界No.1のシェアを獲得しました。また、われわれは南米ではヘルスケア事業を伸ばせていませんでしたが、NS社のチャネルを活かし、血圧計もブラジルでシェアNo.1になりました。

Longine:新規事業では環境関連事業に注力されるとおっしゃいましたが、どういう内容の事業を想定されていますか。

山田:われわれが目指しているのはエネルギーマネジメントです。そこにセンシング&コントロールの技術を使った最適化を提案していきます。太陽光発電用のパワーコンディショナーもその代表例です。

Longine:今後は電力小売りの自由化等、エネルギー関連の変化が起きてくると思います。そうした中どのような事業展開をしていくのでしょうか。

山田:電源の分散化や電力消費のミニグリッド化が進むと考えています。小さな単位の中で最適なマネジメントを行うことは、われわれにとって大きなビジネスチャンスです。より細かい単位でエネルギー消費のセンシングが必要ですし、それに合わせた電力を作り出すコントロールも必要になります。これまでのように大規模な発電所で大量に発電し、配電をするというモデルから、小さな単位での最適化が進むはずです。そうした環境下では、より多くの蓄電池とパワコンが必要になりますし、蓄電池の状態をセンシングするセンサもたくさん必要になります。

Longine:3つの基本戦略とこれに基づいたM&Aの方針についてよく理解できました。本日はお時間をいただき、どうもありがとうございました。

山田:こちらこそありがとうございました。これからもオムロンは長期ビジョンを掲げ、「世界中の人々からその存在を必要とされ、期待される企業」を目指し続けます。皆様からの変わらぬご支援をお願いいたします。

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