(6166:東証マザーズ) 中村超硬 今後の原価低減策の成果に注目
今回のポイント |
・17年3月期の売上高は前期比27.0%減の49億92百万円。主力商品であるダイヤモンドワイヤの販売において、主要顧客との販売単価の交渉過程で生じた取引量の減少、中国における太陽電池用シリコンウエハ市況の悪化、競争激化による価格の下落と円高の進行などが大きく影響した。減収に伴い、営業利益以下損失に転じた。2016年8月に次ぎ、2017年2月に再度通期予想を下方修正。配当は無配へ。
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・大幅減収・損失だった前期から一転し、18年3月期は急回復を見込んでいる。売上高は前期比130.3%の115億円で過去最高を更新する。ダイヤモンドワイヤの需要は多結晶ウエハ市場中心に拡大傾向が続くと見込んでおり、そうした市場環境を背景に、ダイヤモンドワイヤ生産の高速化により、設備投資を抑制しながらの生産能力増強を実現する。営業利益は7億円。前期で下げ止まり感が出てきた販売単価は、多結晶シリコンウエハ向け需要が急増し緩やかに推移すると見ている。一方で挑戦的な原価低減策により大幅な利益率改善を実現し、来期以降も改善が続くと見ている。配当は今後の事業展開および財務体質などを総合的に勘案し、前期に続き無配とする。
・残念ながら2度の下方修正とはなったが、今期急回復の確度について会社側はかなりの自信をもっているようだ。株価も今年2月の2度目の下方修正の発表を底に戻り歩調となっている。投資家、市場の信頼を本格的に回復することができるか? まずは短期的ではあるが第1四半期以降の業績推移を注目したい。
会社概要 |
太陽電池に用いられるシリコンウエハの製造工程の一つであるスライス加工で使用されるダイヤモンドワイヤの開発・製造・販売が主力事業。細いピアノ線にダイヤモンドの粒を強く固定した糸状の工具であるダイヤモンドワイヤは、シリコンウエハ(※1)の低コスト化をもたらすものとして急速に普及しており、同社は世界シェア2位のリーディングカンパニー。ダイヤモンドワイヤの製造販売に加え、関連会社にてダイヤモンドワイヤによるスライス事業(※2)も手掛ける独自のビジネスモデルも大きな強み。新規事業の早期立ち上げにも注力中。 ウエハ(※1)
電子材料の塊(インゴット)から目的に応じて薄くスライスされた板状の機能部品。シリコン、サファイア、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)など、用途に応じて様々な材質がある。ICチップや太陽電池に多く用いられるのがシリコンウエハ。 スライス事業(※2) 2013年9月に中超デバイス・テクノロジー株式会社(譲渡時、持分法適用関連会社。2016年12月連結子会社)へ事業譲渡 【1-1 沿革】
1954年10月大阪府堺市においてミシン用の小ネジを作る会社として創業した「中村鉄工所」が前身。 ダイヤモンドノズル(※1)
先端に焼結ダイヤモンドを使用したノズル。電子部品をプリント基板に装着したりする際に用いられる。ダイヤモンドを使用する事がノズルの長寿命化や電子部品の保持能力、画像認識への有効性の向上、実装率向上につながっている。 【1-2 経営理念】
![]() 【1-3 市場環境】
地球温暖化の原因と言われている温室効果ガス削減のために再生可能エネルギーの利用が世界的に進められているが、その中でも太陽光発電は有効な発電方法と位置付けられ、発電を行うための太陽電池市場は今後も先進国、新興国ともに緩やかな成長が見込まれている。 ![]() 一方、足下の地域別生産能力見通しにおいては、欧州、米国、日本が横這いなのに対し、中国が生産量、伸び率ともに断然のトップとなる。 ダイヤモンドワイヤの世界シェアは、これまでは旭ダイヤモンド工業株式会社(6140、東証1部)が第1位で、同社は第2位と世界市場は日本企業がリードしてきたが、近年では中国メーカーも台頭してきている。 ![]() 【1-4 事業内容】
1.セグメント
同社の事業は電子材料スライス周辺事業、特殊精密機器事業、化学繊維用紡糸ノズル事業の3事業セグメントで構成されている。 ![]() (1)電子材料スライス周辺事業
太陽電池の製造工程におけるシリコンインゴットのスライス加工で使用するダイヤモンドワイヤの開発・製造・販売を行っている。 ①ダイヤモンドワイヤとは?
同社のダイヤモンドワイヤは、太陽電池パネルのメイン部品となる太陽電池セルに使われるシリコンウエハの製造工程のうち、スライス加工工程において使用される。 ![]() ②シリコンウエハのスライス方法
シリコンウエハのスライス方法には、主として「遊離砥粒方式」とダイヤモンドワイヤを用いた「固定砥粒方式」の2種類がある。 ![]() カーフロス(※)
切断溝幅(切り代)のこと。カーフロスは材料のロスとなるため、太陽電池パネルの製造コスト低減のためできるだけ小さくする必要がある。 以上のように、「加工速度の向上」、「低いランニングコスト」、「カーフロスの低減」、「ワイヤ使用量の削減による環境負荷軽減」といった点から、ダイヤモンドワイヤを用いた「固定砥粒方式」への転換が進み、需要も増大している。 ![]() 加えて、1つのインゴットから製造できるシリコンウエハの枚数を増大させることは、生産性の向上、原価低減の観点からウエハメーカーにとっては重要なポイントであるため、ダイヤモンドワイヤの細線化にも積極的に取組んでいる。 また、連結子会社「中超住江デバイス・テクノロジー株式会社」では、中村超硬のダイヤモンドワイヤを用いたスライス事業を手掛けている。(詳細は、【1-5特徴・強み】の項目参照) (2)特殊精密機器事業
ダイヤモンドや超硬合金、セラミックスなど耐摩耗性の高い硬脆材料を用いた特殊精密部品、工具の開発・製造・販売を行っている。 (3)化学繊維用紡糸ノズル事業
主に、化学繊維用紡糸ノズル及び周辺部品、不織布用ノズル・同装置等の設計・製造・販売を行っている。 【1-5 特徴と強み】
<スライス事業も手掛ける独自のビジネスモデル>
前述のように連結子会社「中超住江デバイス・テクノロジー株式会社」では、中村超硬が製造したダイヤモンドワイヤを用いてシリコンインゴットをスライス加工し、太陽電池用シリコンウエハを製造・販売している。 この事業モデルはほとんど例が無く、同社グループの大きな特長である。 ![]() |
2017年3月期決算概要 |
![]() 大幅減収・営業損失へ。
売上高は前期比27.0%減の49億92百万円。主力商品であるダイヤモンドワイヤの販売において、主要顧客との販売単価の交渉過程で生じた取引量の減少、中国における太陽電池用シリコンウエハ市況の悪化、競争激化による価格の下落と円高の進行などが大きく影響した。減収に伴い、営業利益以下損失に転じた。2016年8月に次ぎ、2017年2月に再度通期予想を下方修正。配当は無配へ。 ![]() <電子材料スライス周辺事業>
減収・営業損失 <特殊精密機器事業>
減収・営業損失 <化学繊維用撚糸ノズル事業>
増収・増益 ![]() 現預金が減少した一方在庫が増加し、流動資産は前期末比3億27百万円増加した。設備投資による有形固定資産の増加などで固定資産は同16億41百万円増加し、資産合計は同19億69百万円増加の121億95百万円となった。長短期借入金の増加などにより負債合計は同20億27百万円増加の71億80百万円。 ![]() 損失計上、在庫の増加で営業CFはマイナスに転じた。 |
2018年3月期業績予想 |
![]() 急回復を見込む。
大幅減収・損失だった前期から一転し、急回復を見込んでいる。 |
事業戦略について |
(1)ダイヤモンドワイヤ販売について
*販売戦略 今後のダイヤモンドワイヤ販売については、以下3つの主要戦略を掲げている。 ①多結晶シリコンウエハ市場への普及拡大
最優先戦略。 ②高付加価値のΦ60μmワイヤを販売
インゴットが高価な単結晶シリコンウエハ市場においては、細線化(ウエハを薄くすること)ができればできるほどコストメリットは大きい。 ③技術革新で生産量拡大と原価低減を実現
高品質を維持しつつ生産速度の倍増を目指すとともに、休止時間の大幅な削減による設備稼働率の向上を進め生産量を拡大する。 *市場状況と販売方針
ダイヤモンドワイヤの市場状況に関して同社は以下のように見ている。 ![]() ![]() ![]() ![]() そうした好環境下、同社は以下のような販売方針を打ち出している。 顧客については、品質重視の大手ウエハメーカーや、免税や中国外など同社にとって取引環境の優位性が見込まれる顧客など持続的な取引が期待できる先を選別する。 また多結晶メーカーとの取引比率引き上げ、単結晶メーカーにはΦ60μmワイヤの拡販など、自社の強みを活かすことのできる使用環境を選択する。 (2)新規開発事業と新たな研究開発テーマについて
ダイヤモンドワイヤに次ぐ新たな収益の柱を打ち立てるべく、これまで2つの新規事業の早期事業化に取り組んできたが、いよいよ研究開発テーマを事業ステージへ移行することとした。 ①ライフサイエンス事業
マイクロリアクターシステム開発の事業化。 これに対し、数十から数百μmの微細な流路が設けられたマイクロリアクター(微小反応器)と呼ばれる機器の中で、その流路が合流し、流れのなかで混合、加熱・冷却、分離が行われ理想的な化学反応が起こり化学品の生産が行われるフロー合成技術は、省エネでかつ安全という大きなメリットを持ち、社会的な需要が急速に高まっている。 具体的には、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)バイオメディカル研究部門と、医薬品創製の効率化に繋がる自律型自動合成装置の共同開発に着手した。 医薬品の創製には数十万の化合物合成を行う基礎研究の段階で人手による多大な時間と労力が必要であり、結果として製薬メーカーの競争力低下、薬剤費高騰という課題が浮かび上がっている。 開発を目指す「自律型自動探索装置」は圧倒的なスピードで医薬候補品を創出し、新薬開発期間の短縮や国際競争力の強化に寄与する。 2016年9月には新たな拠点として「フロー合成研究所」を開設し開発体制を強化した。 ![]() また同技術を生かして、2017年6月1日にペプチドリーム・塩野義製薬・積水化学を発起人とした特殊ペプチド原薬の研究開発・製造及び販売を行う新会社設立の検討開始についてのリリースに同社も参画するメンバーとなっている。今後の動向にも注目したい。 ②マテリアルサイエンス事業
ナノサイズゼオライト開発の事業化。 2016年4月にはプレ量産を開始し、日本、中国の展示会に出展したところ問い合わせが多数寄せられている。 A-STEPは大学・公的研究機関などで生まれた国民経済上重要な科学技術に関する研究成果を基にした実用化を目指すための研究開発フェーズを対象とする技術移転支援プログラム。 今回の決定により、共同研究の進展に弾みがつくものと会社側は考えている。また、研究開発費が助成される(開発成功時全額年賦返済、または不成功時10%返済)ことから、当該共同研究に係る資金負担によるリスクが軽減される効果も期待できる。 今後は、積極的なPR活動、市場の早期創出、低コスト中量生産体制の確立などを通じて、産官学連携で事業化に向けた開発を加速する。 ![]() ③新たな研究開発テーマ:再生医療デバイスの開発
マイクロリアクター、ナノサイズゼオライトに次いで新たな研究開発「再生医療デバイス開発」に着手した。 2017年3月、同社と連結子会社の日本ノズル株式会社は、同志社大学との間で、再生医療デバイスの開発を目的とした共同研究契約を締結したと発表した。 (目的)
循環器外科、消化器外科、呼吸器外科、移植外科などでは、再生医学の技術を利用した人工物との置換手術が次世代の外科治療戦略として注目されており、治療を必要とする対象者は世界に約1,000万人以上いると言われている。 同志社大学 生命医科学部医生命システム学科 再生医学研究室 萩原明於教授は、人間の成長に合わせてサイズや機能を補正するための再手術や、経年使用による機能低下などで交換手術を要する従来の人工物が抱える問題点を克服するために、再生医療に係る研究に取り組んでいる。 この共同研究契約による再生医療デバイスの開発が実現すれば、度重なる手術による心身的負荷を軽減できる可能性があり、大きな期待を集めている。 (中村超硬及び日本ノズルの役割)
この共同研究において、中村超硬及び日本ノズルは、保有する精密微細加工や化学繊維技術に関する知見を活かし、生体吸収性ポリマーを用いた連続構造を有する成形体や、不織布・組編み繊維構造体などの複合機構を保有した足場材を開発し、生体内で分解吸収されながら生来の自己細胞組織へ新生していく再生医療デバイスの実用化を目指している。 |
今後の注目点
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残念ながら2度の下方修正とはなったが、今期急回復の確度について会社側はかなりの自信をもっているようだ。株価も今年2月の2度目の下方修正の発表を底に戻り歩調となっている。 投資家、市場の信頼を本格的に回復することができるか? まずは短期的ではあるが第1四半期以降の業績推移を注目したい。 ![]() |
<参考:コーポレートガバナンスについて> |
![]() 2017年6月29日開催予定の第9回定時株主総会において、社外取締役を1名増員する議案を提出している。 ◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2016年7月7日 <実施しない主な原則とその理由> |

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